第70話 繋がる未来へ
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たくさんのものをもらった
たくさんの気持ちを教えてくれた
私は貴方を幸せにしたい
私は貴方と幸せを感じたい
「黒鵺…遅くなってごめんね。」
彼のお墓の前でしゃがめば手を添える。
鳥の鳴き声が聞こえる。
まだ肌寒い朝ー…
「きっと黒鵺も君に会えて喜んでるよ。」
隣では微かに笑みを浮かべ墓を見下ろす秀一。
「……。」
そして、じっと墓を見つめる栄子に狐は首を傾げ「どうかした?」と瞳を向ける。
「…なんだか、不思議な感じがして…。もう居ないんだって分かってるんだけど、なんか…しっくりこないなって。」
それに、微かに目を見開く秀一、だがすぐに笑みを浮かべる。
「実は俺もそう思ってた。…なんでだろうね。」
切なげに瞳を細め、黒鵺の墓をじっと見つめる秀一に、栄子の胸はどこか悲しくも熱くなる。
「…近くに居るような気さえするんだ。魔界にきてから。」
「うん…。」
「……そろそろ行こうか、栄子。皆、待ってる。」
「…うん。」
見下ろす揺れる翡翠と目が合えば、立ち上がる。
背を向け歩き出す彼の背中を見つめる栄子。
たくさんの仲間がいた彼
親友を失い
深手を追い
たった一人で人間界へ来た妖狐蔵馬
信じられるものは少なく
愛情さえ知らなかった彼が唯一触れたのが母の愛情だった
私に向けられた歪んだ恋慕は愛を知らない故の彼の愛情だったのだ。
幸せになりたいね、蔵馬
「蔵馬…」
「…え?」
きょとんとした表情で振り返る愛しい人
秀一の姿で蔵馬と呼ばれたことなど無い秀一は不思議そうな顔をするも自分を真っ直ぐに見る彼女に首を傾げる。
「秀ちゃん…ん~…どっちで呼べばいいんだろう。」
口元に指を当て考える彼女に思わず笑みが浮かぶ。
秀一からすれば、どちらも自分なのだからどっちだって構わない。
「今更だね、栄子。そんなのー…」
翡翠が彼女に向ければ、そこで言葉が止まる
真っ直ぐにこちらを見る彼女
狐を見据える意思の籠る瞳
「私と…幸せになろう!」
顔を真っ赤に染め、意気混んで言う栄子に秀一は目を見開き息を飲む
「私、生きてる間だけだけど、精一杯貴方達を幸せにするから!!」
真っ赤な真っ赤な彼女の顔。
両手に出来ている握り拳。
これはー…
「だからー…だから…、わ、私とー…」
本当に君には参る
腕を引かれる。
薔薇の香りが彼女を包み込めば、唇に感じる甘い熱
開いた口に深く被さるそれに言葉を発することなど無い出来るわけもない。
深く深く熱を絡めてくるそれに思考が蕩け出す
「はぁっ…」
やっと解放された目の前にあるのは熱を帯びた翡翠
「それ、昨晩言ってたら大変だったね、栄子。」
「え?っ…んっ」
再び被さる彼の唇。
何度も何度も深く深く入り込む。
まるで心の中をこれでもかと探られる様なそんな錯覚まで起きる。
そして、いい加減苦しくて胸を叩けばやっと解放されるも強く抱きしめられる。
それはそれはもう本当に逃がさないとばかりに強くー…
「本当にいいの?撤回できないよ?」
耳元で甘く囁かれる。
それにゆっくりと頷き彼の胸に顔を埋める。
「…まさかプロポーズされかけるなんて、俺としたことが、失態だ。」
そして苦笑しながらも酷く嬉しそうに言う秀一。
「…最近は女性からも、多いんだよ?」
「…俺は自分発信がいい。」
「ふふ、やっぱり秀ちゃんだ。」
笑う彼女をさらに抱きしめる。
「でもね、秀ちゃん…どうしても私は早くおばぁちゃんになっちゃうし、先に死んじゃうんだ。本当に生きてる間だけど、それでも一緒にいてくれる?」
今更だ。と狐は思う。
そしてそれこそ彼女自身想像出来ないものだろう。
頭ではわかっていても実際そうなってしまえば、一人彼女だけが歳を老う。
それに彼女は耐えれるのか。
わかっている。
きっと冷静ではいられないだろう。
それでもー…
「当たり前だろ。」
喉から手が出る程望んだ娘
長年壊れそうな程願った愛しい存在。
寿命の差なんぞすでに問題ではない
それで諦める程の想いならすでにやめている
こんなに苦しまなかった…
「それに、君がそんなこと気にする必要もない。いざとなればどうとでもなる。」
そう、いざとなればー…
君が悲しむならー…
「俺が君の寿命を合わす事だって可能だ。俺は…君と一緒に老いたって構わない。」
「!!」
驚いて見上げる彼女に、狐は優しく微笑み見下ろす。
「俺は蔵馬だよ?わかってる?」
いざとなればどうにだって出来るんだ、と切なく微笑む。
「だからー…」
「だめだよ!!」
「…え?」
「そんなのだめ!!だめだめ!!」
しかし、狐を見上げながら目をまん丸と開け意気込んで言う彼女に彼は怪訝そうに眉を寄せる。
「…なんで?」
なぜいけないのか。
逆に自分からすれば彼女がいない世界を長々と生き続ける方が苦痛だ。
それこそ嫌という程分からされた事だ。
「子供はどうするの!?」
「…へ?」
思いも寄らぬ彼女の言葉に思考が止まる。
「黄泉さんが言ってたわ!?人と妖怪の子供は妖怪の遺伝を色濃く受け継ぐって、秀ちゃんの子なら確実に長く長く生き続ける妖怪になるんでしょう?それなのに親の私達が早々死んじゃったら子供達はどうするの!?」
「……。」
「それに、私がいなくなっても、子供がいたら秀ちゃんまだ悲しくないでしょ?だって、私と秀ちゃんの子なんだよ?家族なんだよ?」
家族ー…
狐の見開く瞳に栄子はにっこり笑いかける。
「私だって、すごく怖いよ。色々…でも、秀ちゃんとだったら大丈夫。蔵馬とだったら頑張れる。私は貴方と精一杯生きたい。後悔なんか、しないわ。」
意思の籠る真っ直ぐな瞳が狐の揺れる翡翠を捕らえる。
参ったなんてもんじゃない。
堪らず彼女を強く抱きしめる秀一。
それに、わぁっと微かな抵抗を見せるも再び胸に顔を埋める彼女。
なんて胸が熱いんだろうー…
君が愛しいだけでこんなにも精一杯なのにー…
「秀ちゃん、く、苦しいよ~…」
今でも壊れそうな程君が愛しくて仕方ないのにー…
こんなにも想いは未だ育ち溢れて行くー…
「栄子…帰ったら、もう覚悟して。」
「な、何を?」
「君を愛したい。蔵馬になっても受け止めて。」
「…えっ!?」
バッと顔を真っ赤にさせ見上げる彼女の額に唇を落とす。
「流石に黒鵺の前じゃ俺も気が引ける。」
揺れる翡翠の奥に潜む金が彼女を捕らえば、栄子はごくりと唾を飲み込む。
「そ、それはー…」
「俺の子供、産んでくれるんだろ?」
「え、あ、それは先の話でー…」
「俺、自分で思っていた以上にさみしがりやだから、一杯欲しい。」
「あ、へ…いや、あのー…」
真っ赤に狼狽える彼女がこんなにも愛しい。
強いのか弱いのか、儚いのか図太いのか…未知だ。
「帰ったら俺と結婚して欲しい。」
「え、え……あ、は、はぃ…う、うん?」
顔から湯気が出そうになる彼女は堪らなくなったように俯き顔を埋める。
遥か彼方から続く愛しい想い
それは何度も千切れては、また結ぶ
それは結めば結ぶほど強くなる。
決して千切れる事はない。
愛しい愛しい想いは未来へと繋がるー…
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(まだ最終話ではありません。)