第70話 繋がる未来へ
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青い月夜の下
さわさわと吹く草原の一体に二人はいた
地面に座る男の長い黒髪が風で揺れる
その男は、自身の腕の中でただ静かに眠る女を見下ろしていた
ただ優しく
たた愛おしく
顔に掛かる髪を耳にかければ
額に口付けを落とす
真っ直ぐに彼女を見つめる黒真珠の瞳
それをゆっくりと伏せれば
そのまま風を受ける様に顔をあげ天を仰いだ
「桃華…」
まるで祈る様に名を呟く
彼女の待つ未来が少しでも優しいようにと、願いを込めながらー…
月明かりだけが差し込む薄暗い部屋
シャワーの音がバスルームから響く
ベットに腰掛ける赤い髪の男は髪を掻き上げ窓の向こうに浮かぶ月を見ながらどこか神妙な顔つきで息を付く。
バスルームの扉が開く
石鹸の香りと共にバスローブを着た彼女が「気持ちよかったぁ~」と満面の笑みで出てくれば、彼はゆるりと笑みを浮かべた。
「おいで。」
ぽんぽんと彼は自分の隣を軽く叩く。
それに彼女は一瞬「え?」と固まるも、すぐさま思い出したかのようにボッと真っ赤になり、ロボットの様に固まりながら歩けば、彼の隣にちょこんと腰を降ろす。
彼女の濡れた髪に触れる長く綺麗な指。
まるでそこに全神経があるかの様に栄子はただ瞳をきつく閉じた。
そして、ブォーという音に熱風が頭にかかればそんな思考は吹き飛ぶ。
ドライヤーを片手に髪を乾かしに掛かる秀一。
覚悟をしていた彼女は一瞬そんな彼を見て口をぽかんと開けるものの、「風邪引くだろ?」と優しく笑みを浮かべる彼に、一気に肩の力が抜ける。
そしてそんな彼女の様子に狐が気付かないはずもなかった。
安心されたいのか
意識されたいのか
濡れた髪の先に映る艶かしい白い肌に目が奪われる。
石鹸とシャンプーの甘い香りが狐の脳内をじわじわと溶かす。
「秀ちゃんに髪の毛乾かしてもらうの久々~…きもちぃ~。」
うっとりしながら身を寄せるのは、すでに安心を見せる彼女。
散々おあずけを食らってのいきなりのお食べに食らい付いても良いものか-…
そしてわかっているのだ。
彼女の中に巣食う大きな不安。
中原に対するそれを少しでも和らげたいが為に自分に温もりを求めている事も。
それでもいい、不安を取り除く為に俺を利用しようとも他に理由があろうとも、願ったりだ。
そんなもの途中から熱に酔わし塗り替える事など容易い。
冷静に考える頭と熱を帯びて行く体との間に葛藤が走る。
「栄子…」
乾いたと思われる所でドライヤーを止めベットに置く。
「あぁ…気持ちよかった、私も後で乾かしてあげるね。でも、秀ちゃんの髪長いから時間掛かりそうだね。」
秀一に振り返る栄子。
へへっと笑う無邪気な表情に、狐の身に巣くう熱が急速に広がって行く。
不意に狐が彼女の頬に唇を寄せる。
それに目を見開く彼女だったが、間近で見る彼の探るような熱の籠る表情にごくりと唾を飲み込んだ。
「俺はパーティーが始まる前に入ったから必要ないよ。…あとで入る。」
すぐ側で見つめられる熱を帯びた彼の翡翠。
それが不意に彼女の視界から動けば耳元に掛かる唇の感触に微かな息。
「それとも、入った方がいいかな。…結構きてるんだけど…。」
ベットの上にある彼女の手を秀一の手が優しく握る。
バクバクとなる栄子の心臓の音。
まるで彼に聞こえてしまうのでないのかと思うほどの爆音だ。
頬に耳元に額と順に優しく触れる彼の唇の感触に、耐えきれずぎゅっと瞳を瞑る。
「目を開けて。」
そしてちゅっと落とされる唇への優しいキス。
一瞬で離れたそれと彼の甘い声にゆっくりと目を開ける…が、一気に後悔する。
「ちゃんと俺を見て。」
顎を手で固定され上に向かされれば、視線が絡む。
彼は熱を帯びた艶やかな翡翠を細め、ゆるりと微笑んだ。
「っ-…」
心臓が…また暴れだす。
後頭部にまわされた彼の片手。
そして自然とゆっくりと倒されるのは、まるで借り物の様に力の入らない体。
ベットに沈む体に頬にさらりと落ちる彼の赤い髪…そして甘い彼の香りに、眩暈がする。
そして、何よりも一度見てしまったら目が離せない。
熱を持つ翡翠の瞳
それは金の色を帯びた狐の色
頬に触れる長い指に神経が集まる。
そして、再び唇にゆっくりと落ちる薔薇の香りと柔らかな感触。
何度かついばむそれは、次第に熱を増していく。
そして、バスローブの裾から入り込む地肌に触れる冷たい彼の手にびくりと身が震える。
「あ、あの-…わ、私…」
咄嗟に彼の胸を押し返す。
大事な事を思い出した。
本当に大事な事だ。
「…?」
「私!!!-…」
熱が顔に集まる。
(こ、こんな事を言う日が来るなんて…!!)
「私、初めてなの!!」
瞬間、目の前で大きく見開く翡翠。
「だ、だから…その、や、優しく…して欲しいなって思って…ごめんね、こういうのって、やっぱり重い…のかな?」
「……。」
「??…秀ちゃん?」
本当に重いのかもしれない。
何も言わない彼に不安になり呼びかける。
そうすれば、彼はハッと気付いたように身を起こした。
そして分かる。
暗くとも見える真っ赤な彼の顔。
しかしそれに自分自身気付けば、見られまいと手で口元を隠し背を向ける。
「秀ちゃん…」
背を向けていても分かる。
(これは-…)
「…どう、したの?」
栄子もそろりと起き上がれば、そ~っと後ろから顔を覗き込もうとするも手で遮られる。
(うわ、なんで?…て、照れてるの?恥ずかしいの??なんで??でも-…)
嫌がられているわけではない。
むしろー…
どこか高揚する栄子の胸。
同時に感じる温かい感情…
そう、それこそ何度も身にしみて分かっていた感情
だが、これはかなりの反則だった
「かわいい…秀ちゃん…」
思わず背中に抱きついてしまう。
先程まであんなに大人の顔をしていた彼が今では別人の様だ。
抱きつけば一瞬びくりと肩を揺らす彼だったが、そのまま背後から腰に回された彼女の手を握る。
「秀ちゃん…大好きだよ。」
先程の緊張が嘘の様だ。
触れられた指先からさらに愛しさが込み上げる。
「大好き、秀ちゃん。」
背中に頬を摺り寄せる。
甘くも優しい彼の匂いにうっとりする。
(秀ちゃんの背中って大きいな、女の人みたいに綺麗な顔してるのに、やっぱり男の人なんだな。)
絡まる彼の指。
回された彼女の手が腰から優しく剥がされれば、それを彼はゆるりと引く。
「え?」
そして体制を崩せば再びベットに身が沈み、掴まれた手も顔の横に沈む。
「俺以外の男とこんな事したら許さないから。」
妖艶な金の瞳がこちらを見下ろす。
真っ赤だったはずの顔はいつの間にか元の顔に戻っている、否さらに妖しく瞳を光らせているのは気のせいだろうか…
「秀ちゃん?…え、蔵馬??」
見た目は秀一でも目の色だけははっきりとした蔵馬の色だ。
「うん、蔵馬になりそう。でも大丈夫、抑えてるから…。」
不意に首筋に落ちる唇に、再び身が硬直する。
(あ、あれ?かわいい秀ちゃんどこいった??)
そしてー…
「ひゃっ…」
ざらりと這う舌の感触に思わず声が出、ぶるりと、身が竦む。
「…参ったな。」
首筋に埋めたまま秀一はぽそりと呟く。
濡れた首筋に掛かる彼の息が酷く熱い…
「君があんな事今になっていうから…」
「…え?」
「優しくしたいのに…蔵馬になったらそうも言ってられないじゃないか…」
何かに耐える様に呟けば、再び首筋を舐めてくる舌に身がぞくりと震え、声にならない声が上がる。
「しゅうちゃ…っ…」
「栄子…」
熱が籠る艶やかな声、そして這い上がる手がバスローブの下から太ももを撫で上げる。
「んんっ…」
びくびくと震える体。
鎖骨に落ちる熱…
もう片方の手は前の隙間から手を差し入れられる。
「っ…あっー…」
その時だった-…
「蔵馬ぁぁ!!!!!!出て来い!!!!!」
ドンドンと扉を叩く音に、聞きなれた少年の声。
「俺を髑髏谷に落としてただで済むと思ってるのか!!?栄子を妊娠までさせてまだ盛っているとは…一体どういう了見だ!!」
扉をドンドン叩きながらも猛抗議をする少年、修羅。
「修羅…くん…」
(まだ秀ちゃん探してたんだ…ってか、髑髏谷に落とされるって、いつの間に…。)
そして気付く。
自身の上で漂う禍々しい妖気。
見上げれば心底不機嫌そうな彼の顔が映る。
額に青筋が(秀ちゃんに青筋が…!!?)見えるのはきっと気のせい、だ。
「しゅ、秀ちゃん…」
「………彼にもう遠慮はいらないみたいだね。」
にこりと笑う彼。
それに、ぞくりと悪寒が走れば栄子の顔は引きつる。
ドス黒い狐の妖気は最愛の女にすら恐怖を与えるほど禍々しいものだった。
そして-…
「やっと出てきたな!!この性悪エロ狐!!今日という今日はもう許せないからな!!俺が-…」
部屋の外で意気込んで言う修羅の襟首を掴めば無言で引っ張り隣の部屋へ放り投げる狐。
そして共に入れば、狐はがちゃりと丁寧に内から鍵を掛けた。
「大人の事情に何度も口を挟むな。黄泉の息子だから多めにみてやったが、今回は許す気はない。」
「え、なんだよ、おまえいつもと様子違う-っ…て、ぎゃ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!と、父さぁぁ~ん!!!!!!!!」
そんな修羅の叫び声を隣の部屋で聞いていた栄子。
ご愁傷様…と手を合わせる彼女だった。
数十分後…
厄介ごとも片付き、やっと彼女と至福の時を過ごせると気を取り直して帰って来た狐が自室で見たものは
これでもかと布団をしっかりかぶり気持ち良さそうにベットで寝ている栄子の姿。
がくりとその場に今までに類を見ないほど項垂れる狐。
その後、再び怒り再熱した狐がふらりと隣の部屋に行ったとか行ってないとか…
やはりお預けな蔵馬さんでした。
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