第69話 君を想ふ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「む、む、躯様!!一体何がどうなっているんでしょうか!?いや、これで結果オーライではありますが…、まさかこれはあいつの、ユーリの作戦でしょうか!?」
あわわわと慌て出すのは、その後我に返った奇琳。
あの後、躯が出て行き困惑した場は治まった。
何より躯の力は誰もが知る強さだ。
認めない訳もない。
だが、だからといって戸惑わない者がいないわけではない。
あわわと慌てふためく奇琳に躯は息を付く。
「おまえの望む通りの結末だ。さぞ嬉しいだろう。」
「う、嬉しいのは違いありませんが、一体何が起こったのか…ドッキリだったなんてオチはやめてくださいね。躯様。」
それに「ばかが…」と呆れる躯。
しかしながら躯もはぁと息を付く…
「あれはあれなりに考えての事なんだろう。」
「ならば始めから試合なんぞするなと言ってやりたいです!!」
「そういうな。気とはその都度変わるものだ。俺もそれは良く分かる…。」
髪を掻き揚げ、さぁパーティに戻るとしようと身を起こす。
それにはぁ…と返事をする奇琳。
そんなところで同感してもらっても困りものだと思いながらも、結果オーライには変わりない。
だが、自分の主の就任式ならばこんな式は恥だ。
魔界統一の座をこんな形で譲られれば家臣の自分としてはなんとも不愉快。
結果は良しとしても経緯が気に入らない。
躯の様子からして自分に振られる事を分かっていたように取れるものの、それでも礼儀も恩義もあったもんじゃない。
「奇琳よ…。」
腸が煮え返りながらも自分を呼ぶ背を向けたままの主に顔を上げる。
「馬鹿なことはするな。あれは元々俺の配下の者でもない…自由な魔女だ。そして俺の友人でもある…。」
「……。」
「下手なことすればおまえが死ぬぜ?」
顔が見えずともくすりと笑う彼女は、雰囲気からしても全く動揺する風でも怒っている様でもない。
なるようになる…
なったならば仕方あるまい…
そう彼女が呟けば会場に歩を進める。
奇琳はそんな躯の後姿を見ながら、どっと肩を落とすのだった-…
ライトアップされた庭園
噴水の底から光る淡くも青い光
緩やかに流れる水を見ながら彼女は自分に向かってくる足音に目を伏せた。
「先輩!!」
聞き慣れた声が耳に入れば、彼女はゆっくりと振り返り笑みを浮かべる。
「あらあら、そんなに慌ててどうしたの?」
自分を探し走って来たのか、彼女の髪は少しばかり乱れ、額に薄っすらと汗が浮かんでいる。
「あらあら、じゃないです!先輩さっきのー…」
言いかける栄子の口元にユーリの人差し指が押し当てられる。
「大人には色んな事情があるのよ?…ごめんなさいね。でも、はじめはやる気満々だったのよ?」
と瞳を細め、指を戻す。
「……。」
「いつまでも自由でいれると思ってたんだけど、なんでもそううまくはいかないみたいで。」
揺れる切な気な瞳が遠くを見れば、くすりと笑みの浮かぶ口元。
「…??…よく分からないんですが、魔女の仕事に戻るんですか?それとも人間界に帰ってきてくれるんですか?」
そう栄子が期待を込めて言うもユーリはただ首を横に降る。
それに彼女はすぐにハッと目を丸くさせる。
「…ま、まさか…」
「……。」
「先輩!!結婚するんですか!?」
「…なんで、そうなるのよ。」
呆れた様に笑うユーリ。
確か会社の社長にもそんな事を言われたなと思い出す。
「じゃ、じゃぁ、なんなんですか?私は先輩の後輩として、しばらくお世話してもらった立場として、聞く権利あると思います!!」
開き直ったのだろうか。
意気込んで何やら訳のわからない理由をつけて言う彼女に「なによそれ」と思わず笑う。
「私は…」
「浅野さん。」
ふいに栄子の顔を覗き込むユーリ。
「ありがとう。」
そして、言葉と共にユーリの満面の笑みが栄子の視界に入れば、彼女は目を見開いた。
「さて、そろそろ行きましょう?また料理の追加あるわよ?」
「……。」
よしよしと俯いたままの栄子の頭を撫でるユーリ。
「どうして聞いちゃだめなんですか?」
撫でた頭の下から弱々しく聞こえる彼女の声にユーリは瞳を伏せる。それでも一瞬だ。
「今は秘密なだけよ?謎多き女は魅力的でしょう??それに…」
「違う!!!」
バッと顔をあげる彼女にユーリは苦笑する。
「先輩は、先輩は…また勝手にどっかに行く気です!!」
泣きそうに顔を歪め言う彼女の一言に次はユーリ自身が彼女の言葉に目を見開く。
…また?
「…!?…え、あれ?」
それに栄子はハッとするも、不思議そうに首を傾げる。
そんな彼女を見ながらユーリの顔が微かに歪む。
「バカね、私がいつ勝手にどっか行ったのよ…。」
「そ、そうなんですけど、あ、あれー…」
そして、気付けば勝手に栄子自身の頬を伝う熱。それにユーリはさらに顔を歪めた。
「や、やだな…なんだろ、これ。」
ボロボロと落ちて行く涙の石達。
それを手に取りながら顔を歪める。
『ママ…』
『ママ…』
星達が瞬く夜空
包まれる温もりと安心感
『あれがパパとママで、あれがわたしだよ~』
夜空を小さな指が指す
撫でられる頭
重なり合う笑い声
ゆるやかなゆるやかな
温かな甘い日々ー…
「……ま、ま…」
某然と立ちすくむ彼女がつぶやく言葉にユーリはきつく眉を寄せ目を伏せる。
「!?…って!!す、すみません!私、先輩になんて失礼な!!いきなりのホームシック!?もう、この涙も止まれ止まれ~!!」
我に返った栄子は自身の発言に顔を真っ赤にしながらも頬をパンパンと叩く。
その時だったー…
「ーーー…」
名を呼ばれた気がした
酷く懐かしい言葉で
瞬間包まれる暖かい温もり
鼻を掠めるユーリの香り
香水の中に隠された懐かしくも甘い香り…
ユーリに抱きしめられる栄子。
彼女に抱きしめられた事などない。それでも違和感が全くないのはなんでだろうか。
逆にひどく恋しくて
切なくてあったかくて…
秀一や蔵馬の時とは違う暖かさ…
涙が再び溢れる
「大好きよ、ずっと…」
呟く彼女の声と
コロコロ落ちる涙
二人の足元に転がるのは
涙の石
『なんでーーのはすぐ溶けちゃうの?』
優しい手が頭を撫でた
そして優しい声が耳に入る
『あなたが…パパとママの子だからよ?』
青い光が地面を照らす
光を放つ涙の石に
光を吸い込む涙の跡
『大好きよ、ずっと…』
それは確かな証…
.