第69話 君を想ふ
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音楽が会場に鳴り響く-…
緩やかに揺れるドレスを纏う煌びやかな女性達
そんな女性達の手を取り誘導するのは、タキシードに身を包む男性達
音楽と共に踊る男女
きらきら光る大きなシャンデリア
ずらりと並べられた豪勢な食事
もぐもぐもぐ…
ぐびぐびぐびー…
効果音が付きそうな食いっぷりを発揮しているのはやはり彼女。
肩につくかつかないかの髪はゆるく巻かれ、白いドレスに身を包んだ一見清楚で美しく品ある姿。
しかし食事は豪快?だ。
「そんなにがっつくな。服に飛ぶぞ。」
そんな彼女を隣で呆れた目で見る飛影。
ビュッフェ形式の立食パーティー。
ワイングラスを持ったまま立つ跳影に、用意された椅子に腰掛け大いに食べる栄子。
すでに彼女の持つ大皿は空だ。
「おまえに立食があってるのかどうか定かじゃないな。」
ブュッフェはあってるみたいだが…と呟く飛影。
「そんなことないよ。皆と話せるし、好きな食べ物チョイスできるし…」
もぐもぐー…
「……。」
食べるのに必死で、対して周りと話していない様な気もするが…と、立食の意味をなしていないだろうと思う飛影だがそれでも彼女らしいその姿に思わず笑みが漏れる。
「豚になるぞ。」
「帰ったらバリバリ働くから大丈夫!!」
拳を作り笑う栄子。
しかし、すぐさま何かに気づいたのか静かになれば、フォークを加えたまま眉を寄せ俯く。
帰ったらー…
そう、それは魔界の皆とさようならをするという事だ。
「……、おい。なんだその百面相は…。」
呆れた赤い瞳が彼女を見下ろす。
「……うぅっ。」
口をもぐもぐと再び動かすものの泣きそうになる栄子。
わかってはいる。
わかってはいるが、もうすぐ帰らねばならないと改めて思わされると酷く寂しいのだ。
(うぅ、考えたら泣きそう~)
そんな様子に呆れながら息を着く飛影。
「また蔵馬と来ればいいだろ。」
まぁ、帰ってもすぐに躯に呼ばれれのが目に見えるが、と思う飛影。
そして、躯の心情がまたこれも手に取るように分かるから驚きだ。
あれは他人に決して心の内をそうそう読ませる事はない、なのに最近は酷くわかりやすい。
日に日にため息の多くなる躯に彼女の名を出すだけで雰囲気が一変するのだから困りものだ。
(本当にこいつは妖怪に好かれるんだな。なんかの呪いか?)
ちらりと隣で沈む彼女を見ながら瞳を細める。
ここまでくれば良いのか悪いのかわからない。
それでも自分も確かに目の前の女に惹かれた一人なのだ。
ー…思い出す。以前、躯が言った言葉ー…
『あいつは俺の中にすんなり入ってくる、駆け引きなどない、まっすぐに真正面から手を広げて俺の所へ来るんだ。そんな無防備なやつ、狩る気にもなれんだろう?馬鹿な草食動物だが、ある意味毒気が抜かれる。』
(毒気、か…)
そう物思いに耽っていれば裾を引っ張られ我に返る。
こちらをじっと不安気に見上げる栄子。
「飛影は秀ちゃんと友達だからすぐ会いに来てくれるよね?」
上目遣いの潤む瞳。
これは確信犯、なのだろうか。
「…あぁ、そうだなー…」
先日暴露した自身の気持ちを忘れたわけではないだろうに、この仕打ち。
だからこそ意地悪もしたくなる。
「おまえに会いにいく。」
「…え?…あ…」
目を見開く栄子はすぐさま頬を赤く染める。
「……。」
都合の良い頭だ。
本当に。
一気に照れる彼女。
自分で失言だと思ったのか大人しくなり俯き頭を掻く。
そして、飛影自身も顔に出さずとも驚いてはいた。
こんなにもすんなり甘い言葉が自分の口から出る様になるとは…と。
どこか面白く飛影の口角は上がる。
そんな時だった。
「何口説いてんのさ飛影。栄子、俺も混ぜてよ。」
軽い口調が響けばどこから来たのか片手にジュースを持った修羅が二人の目の前に現れる。
「修羅くん…と、黄泉さん。」
「……。」
修羅の隣には彼より長身である黄泉の姿もある。
相変わらず修羅とは対象的に落ち着いた雰囲気を醸し出す黄泉。
「先程から見ていたがよく食べる娘だな。話には聞いていたが驚いたぞ。」
と、品良く口角を上げる黄泉に、栄子は思わず赤くなる。飛影ならまだしも黄泉にがっついていた姿を見られるのはやはり恥ずかしいらしい。(見えなくともわかる黄泉)
しかし、何を今更恥がしがるのか、あれは周り等気にしていないだろう。と内心思う飛影と修羅は静かに飲み物に口を付ける。
がー…
「よく食べるのは良い事だ。蔵馬の子を生むのにひ弱では困る。」
「「ブッ!!」」
黄泉の言葉に、真っ赤になり口をぽかんと開く彼女に、その側では各々の飲み物を吹き出し咳込む二人。
「ま、まさか、栄子おまえ…いや、そんなー…嘘だろ?」
真っ青な修羅。
口元を拭いながら彼女をまじまじと見つめれば、次第にわなわなと体を震わす。
それに未だ真っ赤になり言葉の出ない栄子はぶるぶると首を降るがー…
「妊娠なんて、冗談じゃない!!」
「「!!!」」
少年に彼女の必死の弁解が伝わるわけもない。
誰よりも五感が優れた自分の父である黄泉の何気無い発言が想像力豊かな年頃の修羅の思考を支配していたのだ。
修羅の衝撃の一言でさらに固まる栄子。
あのエロ狐~!!と、修羅から溢れんばかりの妖気がメラメラと立ち込めば彼は即座に踵を返しダッシュして去る。
「「……。」」
放心する栄子と心底忌々しそうに口元を拭う飛影。
そして、
「我が子ながら扱い易く助かる。」
とくすくすと笑う黄泉。
それに飛影は驚かせるな…と舌打ちをした。
「修羅の蔵馬苦手意識を克服させたくてな、変に大人びたりするのだが、まだまだ若くて馬鹿な息子でよかったよ。」
「…蔵馬からも顰蹙買うぜ?」
「いや、あれはむしろ俺に感謝するだろう。」
ちらりと黄泉の顔が栄子に向く。
「…??」
意味がわからず赤い顔のままきょとんとする栄子。
それに再びちっと舌打ちをする飛影。
「なんでも意識が大事だろう?」
そう言い、栄子の頭を優しく撫でる。
それに黄泉にそんな事をされたことなどなかった栄子は思わず肩を竦めるも、黄泉が前屈みになり彼女の耳元で何かを囁いた。
「……。」
「…そういうことだ。いらんお節介だろうがな。」
ポンっと軽く頭を叩けば黄泉はさぁ修羅を探してくるよ、と手を上げそのまま背を向け去っていく。
残された飛影と栄子。
「……。どうした?」
何を言われたのか気になるものの聞いて良いのかわからず様子を見る飛影。
それに栄子は一瞬はっとするものの、すぐにへらりと笑い「なんでもない。」と笑う。
「……。」
「あ、飛影、ちょっと服濡れちゃったね。」
大丈夫?とハンカチを出し自分の襟元を拭く彼女は先程とは少し様子が違う。
それに言わないならば無理に聞く必要もないだろうと自分を制する飛影。
そして、離れていく黄泉の後ろ姿を赤い瞳を細めただ見据えるのだった。
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