第68話 燻る片想い4
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- 諦めも肝心だ -
次の日、飛影は栄子の部屋の前まで足を運んでいた。
が、手が扉に伸びるも、ノックをする事はない。伸ばしては止め伸ばしてはやめる。
ついには自室に戻ろうとするも、また彼女の部屋の前に行く-…それも今の時点ではすでに5往復はしている飛影。
あの行動は確かに彼女を怖がらせた。
鈍感とはいえ、彼女に非はない。
ただ鈍感なだけ…
(いや、あそこまで鈍感な事がそもそも問題だが。)
だからこそイラついてあんな行動に出てしまった。
後悔をしているわけではない。
あの行動は俺の想いで俺の気持ち。
だが、自身の想いを伝える以前に強行な姿勢を取った事実は変えられず、それ故理由を知らない彼女を驚かせ怖がらせたのは事実なのだ。
今更…
告白を…
「好き」などと俺はきっと口が裂けても言えない。
手に入る、入らないかではないのだ。
俺の想いは…
狐のそれには到底及ばないと始めから分かっているから-…
「飛影、どうしたの?」
ふいに背後から声を掛けられびくりと肩が上がり振り返る飛影。
振り返った先に立っているのはきょとんとした瞳のこの部屋の主だ。
手を見れば蔵馬から聞いた気配を消す指輪が目に入る。
「……飛影??」
何も言わない俺に、顔を覗き込む栄子。
いきなりの登場に動揺しないわけがない。
とりあえず気持ちを落ち着かせようと彼女から視線を外せば-…
「あれ…まだ無視するんだ。私の部屋の前にいるくせに。」
と少し笑いながら悪態を付かれる。
「……。」
-…根にもたれても仕方ない。
「部屋に入ろう、飛影。」
それに飛影は無言のまま開かれたその部屋へ足を踏み入れるのだった。
そして-…
出される紅茶に、ゆっくりと口をつける飛影。
目の前では身を乗り出し「味どう?」と聞いてくる栄子。
「…悪くない。」
「本当?よかったぁ!!魔界の紅茶ってなかなかブレンドが難しくって!!」
嬉しそうに自分の椅子に腰を降ろせば自身のカップに口を付ける栄子。
「うんうん、確かに合格点。」
等と満足気に頷いている。
能天気なやつだ-…
昨日あんな目にあいながら笑っている女。
しかも大いに怒った姿も久々に見た。
「本当にお前は喜怒哀楽が激しいな。」
「え、そうかな?」
「疲労はもういいのか?」
「うん、一日寝たら戻った。こっちの薬って本当にすごいんだね。」
人間界にもあったらきっと馬鹿売れね。と笑う。
「私は、あなた達の回復力に完敗だわ。妖怪って本当に未知だね。あの装置に入ったらすぐだったんでしょう?腕も再生するってありえないね。ドラ○ン○ールの緑の人みたい。」
あの装置とは躯の研究所にある妖怪専用の回復装置の事だ。
「…栄子。」
「何?」
「……昨日は悪かった。」
真っ直ぐに彼女を見て言えば一瞬目を見開くそれに、おまえもか…と内心思う飛影だったが、視線を逸らし頬を赤らめる彼女に逆に飛影の鼓動が高鳴る。
「………うん。」
俯きもじもじとする栄子。
まさか…気づいたのか?
いや、普通ならあそこまでしたら気づくだろうが。
そういえば、俺と狐の戦いは自分が原因だと分かっていた…
あぁ、やはりこれは…
いくら鈍感な娘でも分かるか。
しかし-…
「……。」
「…………。」
気まずい…
なんだこれは-…
内心ちっと舌打ちするもこの状況の打開策を考える。
しかも、こんな風に照れられては変に期待をしてしまうではないか。
嫌ではないのだろうと…
もしかすればいつか受け入れてもらえるのではないのだろうかと-…
あきらめも肝心だと心に決めたばかりだったのにだ。
「…喧嘩の理由、秀ちゃんに聞いても教えてくれなかったんだ。だから、私なりに色々整理してみたの…。」
それはそうだ。
狐の口から俺の気持ちを言う事はないだろう。
「そういえば、私と秀ちゃんが付合ってから飛影私と話してくれなくなったなって…。」
「……。」
「あんな風に私を組み敷いたのも、よく…考えました。」
頬を赤らめて言う彼女が恨めしい。
「……やめろ、言うな。」
ここで好きな女に、自分の気持ちを暴露されるなどたまったものではない。
「違う、言わせて、飛影。」
真っ赤な顔を上げ瞳を潤ませる栄子に、思わずごくりと唾を飲み込む。
「もう、必要ない。だからやめろ。俺の中では解決した。」
「解決してない。それは飛影が勝手にそうしてるだけでしょう??そうしなくちゃいけないって思っているから。」
知ったような口を。
せっかく狐と決着をつけ(勝負事態はついてはいないが。)心に決めたことをこうもぶり返すとはいい度胸をしている。
求めたら困るのはお前ではないか。
「解決させないつもりか?自分で何を言っているのか分かっているのか、貴様。」
赤い瞳が熱を帯びぎろりと栄子を射抜く。
期待してしまう。
解決などしていないと言われれば…
舞い上がってしまう。
「分かってる。だけど…こういうことはしっかり話しておかなくちゃいけないから。」
「おまえは狐と付合っているんだろうが。何をどうしたら解決できる、お前が好きなのはあいつだろう?」
「だって飛影は-…」
言うな。
歯止めが聞かなくなる-…
赤らめた顔で、今にも泣きそうに俺を見て-…
「しつこいぞ。答えられんくせに調子の良いことを-…」
「だって飛影は秀ちゃんがすきなんでしょう!?」
がばっと顔を上げ叫ぶ彼女の言葉に思考が止まる。
「だから、あんなに私に冷たかったんだって。だから秀ちゃんも私に教えてくれなくて…。私に嫉妬してたんだよね。ごめんね、飛影…私、本当に鈍くて…気づいてたらもっと色んな事考えられていた…」
「………。」
馬鹿だとは思っていたが-…
壊滅的、だ。
飛影の額に浮かぶ青筋。
これには究極過ぎて殺意が沸く…
「飛影!!私-…」
「黙れ。」
「…へ??」
地を這うような低い声に必死だった彼女は次の瞬間目を丸くする。
「貴様には心底呆れる。」
「え、何?なんで怒ってるの?」
赤い顔がさぁっと青くなっていく栄子。
私また何か言っちゃった?と口を押さえる彼女に、口ではなくその頭の中身をどうにかしろと思う。
「考えろ、馬鹿女。」
ここまで来ればもういい。
「ひ、飛影!?」
ひぃっと身を引く彼女の腕を掴み真っ直ぐに見据える。
「俺がすきだったのはおまえだ!!馬鹿が!!」
「………。」
「なんで蔵馬なんだ、寒気がすることを言うな。」
忌々しそうに呟けば、目の前の女の瞳の色が我に返り次の瞬間、ぼっと先程とは比にならない程赤くなる。
「………ひ、ひへい…っ!!!ちょ、ちょれって…」
「ふん。」
なんで口が回らないんだ…と思いながらも彼女の手を離し、再び椅子に座れば紅茶に口をつける飛影。
「もう解決した。気にするな…。次馬鹿な事を言えば身をもってわからさせてやる。」
好きな女にあんな気色の悪い誤解たまったもんじゃない…と舌打ちをする。
「………。」
「普通にしろ。もう、過去形だ。あれに嫌気がさしたら俺の所へ来い。」
「そ、それ、過去形って…い、言わないんじゃ…」
あわわわと真っ赤になりながら慌てる彼女。
「………過去形だ。」
「……。」
「……。」
ずず…
真っ赤になりながら紅茶をすする彼女。
想像を超えた女の馬鹿な妄想は俺の気持ちを一気に暴露させた-…
あんなに戸惑っていた想いがこうも簡単に口から出るとは驚きだ
まぁあんなにも気持ちの悪い誤解は本気で勘弁だ。
そして思う-…
諦めではなく、開き直りが肝心だと。
少し蔵馬の立ち位置に近づいた気がした飛影であった。
「そのふざけた妄想他のやつにいってないだろうな?」
これには、一応釘を差しておくに限る。
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