第6話 廻り出す歯車
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
しばらく経つと、視線も和やかなものとなりいつしか無くなっていた。
ほっとした頃に、水の入ったグラスを彼が持ってきてくれた。
口をグラスに付けた時、グラスの中の水面がなだらかに円を書くように揺れる。
振動に反応するような水面の弧。
同時に遠くからかすかに聞こえる爆発音に悲鳴。
外が騒がしい。
「あれ?まだ風が恋しいの?」
窓から身を乗り出す栄子に同期の彼は呆れた様に笑う。
街はきらきらと輝き人々はそれぞれ自由に群がっている。
どこにもおかしい様子はない。
自分の周りだって。
栄子は店の中を見回すが皆先ほどと何ら変わりなく宴会を楽しんでいる。
もう一度窓から外を見る。
何も変わらない世界。
だけど響く爆発音と女性の悲鳴。
(どこ…なの!?)
(どうして皆は聞こえないの?)
確かに大きな音でも叫び声でもない。だが聞こえないわけでもない。
「浅野さん、どうしたの?」
中原が隣に来て窓に腕をかける。
「先輩…」
後ろを見るといつの間にか同期の彼は女性スタッフに連れて行かれたのか別の場所でお酒を飲まされていた。
「…あなたが全然相手にしないからよ、可哀想にね。」
中原はくすくすと楽しそうに笑う。
だが今の栄子はそんな冗談を聞いている場合ではない。
そんな事よりも。
栄子は口を開けようとした…
「……聞こえるわよ?」
「…えっ…」
思わぬ言葉に栄子は驚いた顔で中原を見る。
目を細め妖しく微笑む彼女。
「そっそうですよね!?聞こえますよね!?どっからでしょう?大丈夫なのかな?」
やはり聞き間違いではなかったのだと安心するのと同時になぜか不安がよぎる。
何かが変だと感じる。
動揺してしまうのはなぜだろうか。
「…あなた秀一君とはどれくらいで会ってるの?」
「えっ…えっと、週一回位は会ってるかな、何でですか?」
最近はもう少し多い。なぜなら栄子の色気レッスンに秀一を巻き込んでいるからだ。
「あら、意外と少ないのね。もっと多いのかと思ったわ…」
「あの!先輩、そんな場合じゃ…ー」
「で、どこから聞こえるのかしら。この犬の遠吠え。」
その発言に栄子は固まる。
犬の遠吠え?
「いや…あの…」
「それ以外は何も聞こえないわよ?」
くすりと笑う彼女。
栄子は耳を澄ます。
どこからか確かに野良犬の遠吠えが聞こえる。
そして先ほどの爆発音や悲鳴は聴こえない。
「あの…さっき!爆発…」
ワオーン
ワオーン
言いかけた言葉を遮る犬の鳴き声。
すぐ近くだ。
「あらあら、この屋根の上かしらね。珍しいわねぇ。」
何か変だ。
周りがおかしいのではない。
(…おかしいのは、私?)
なぜか違和感を覚える。
うまく説明出来ないが自分と周りの何かが違う気がした。
「…ちょっと外に風に当たってきます。」
額を抑えながら栄子は宴会場を出て行く。
そんな彼女の後ろ姿を見つめながら中原の口元が孤を描く。
「…だんだんとおいしそうになっちゃって、ねぇ?」
窓の外に目を向け呟くと、そっと携帯電話を取り出した。