第68話 燻る片想い4
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人は簡単に死んでしまうものだと-…
あの時から私は知っている。
自分の為に詰まれた命達。
その命を愛するものが必ずどこかに居た
だから分かる-…
秀忠を失った時の喪失感と行き場のない悲しみを誰かが自分のせいで同じ様に感じていたのだろうと、否それ以上のものもあったに違いないと-…
だから-…考えてしまう。
蔵馬なら-…
秀一ならば-…
私はきっと-…
私はどうなる…?
想像すらできない-…
考えることすら拒絶してしまう
それほど恐ろしい
それほど…
私はあなたに依存している
それは生まれた時からきっと変わらない思い
昔も今も-…
これから先も-…
*****************
彼女はゆるりと近づいた。
意識のない地に伏した彼らに。
額に青筋を立てながら…
体の内側から溢れてくる温かな気
血を流しすぎて冷えていたはずの体内に血が巡る
秀一の意識は徐々に浮上していったー…
魔界の森の奥に女が一人に男が二人。
膝を付き両手を彼女の左右に寝かせた男二人に翳す。
瞬間、青い気が球体を描くように三人を包む。
幾重にも重なる青いオーラ。
それは彼ら達を守るようにしっかりと包み込む。
彼女の表情は苦痛で歪む。
その額に浮かぶ汗。
彼女の手から溢れんばかりの霊気が放出される。
薄っすらと翡翠の瞳が開けば、虚ろながらもそれを捉える。
酷く汚れ破れたドレスを身に纏い、しかしそれを気にする様子もなく大量の霊気を放出し自分ともう一人に与えている彼女の姿。
何をしているのかなど一目瞭然。
「…やめろ。」
秀一が振り絞るように声を出せば、それに一瞬驚いて彼を見るも再び顔を戻せばさらに霊気を放出する。
辛そうな彼女の横顔が目に入る。
何も言わず先走る行動に彼は彼女の腕を掴む。
「やめるんだ、大丈夫、だから…。」
「……。」
「栄子!!」
「…嫌。」
「!!」
「言う事なんか聞かない。絶対…。嫌い、秀ちゃんなんか。」
「…っ、やめろ!」
彼女の腕を掴み自分の方へ引く。
その瞬間、体に激痛が走り秀一は顔を歪めるも、それを離すことはしない。
「頼むから、それ以上はやめてくれー…」
痛むもののまだ自由に動ける体に彼はよほどの治癒力を彼女が使用したのだと理解した。
そして生身の人間ならばこんなにも霊気を使えばいつ倒れてもおかしくはない。
心配そうに眉を寄せる秀一に彼女の表情は曇ればそのまま俯く。
「……私、止める気だった。でも、間に合わなかった。」
そして狐は気付く。
彼女の指にはめられた指輪。
それの意味を。
自分は知らずに彼女を危険に晒していたのだと。彼女の容姿からそれはすべて説明のつくものだった。
「止めるなって、修羅くんに言われた。でも、やっぱり無理で…止めたかった…。それにー…」
地面にコロコロと転がって行く涙の石。
それに顔を顰め彼女の頭に手を伸ばそうとした秀一だったが…
「私が理由!??それでこんなシャレにもならないような喧嘩するの!??」
くわっと鬼の様な形相で顔をあげる彼女に秀一の手は宙を舞う。
「ねぇっ!!片腕なくして、血まみれになって!!死にたいの!?それはわたしの治癒じゃなおらないのよ!?」
今にも掴みかかる勢いで身を乗りだし未だ涙をこれでもかと流す彼女にとりあえず落ち着いて…と片方しかない手のひらを向け制する。
それでも尚野犬の如く唸り声でもあげそうな彼女は、反対側の男に掴みかかった。
「飛影も起きてるのバレバレよ!霊気送ってんの私なんだから!!なんか言いなさいよ!」
滅多にここまでキレる事はそうない。
秀一は若干口元が引きつりながらも首元を掴まれ揺さぶられている飛影に視線を移す。
「ばっ、馬鹿が!殺す気か、貴様!!」
それに本気で苦しそうに彼女の手を払いのける彼はまだまだ本調子ではなさそうだ。
ごほごほと咳き込む。
「いくらおまえのせいだってゆわれても…無理だもん!!」
地面につく両膝の上に握り拳をつくる彼女。
涙は洪水の如く溢れ、止む気配はない。
「黙ってようって思ったけど無理!!やっぱり嫌だ!!わたしの前で、私のせいで誰かが傷つくの!!」
彼女の脳裏に過ぎるのは切っても切れない過去達。
他人でも心が痛み苦しい。
それが身近な大切な人達ならば一体自分はどうなるのだろうか。
安易に想像が出来てしまうのは彼女自身がその中で生きてきたからだ。
人は簡単に死ぬものだと-…
いくら妖怪といえど不死身ではないのだと。
「飛影なんかもう知らない!勝手にずっと私の事無視してたらいいわっ!!秀ちゃんとはもう絶対約束なんかしない!!こんな簡単に命を粗末にする様なあなた達なんて、こちらから願い下げよ!…二人とも、もう絶交してやる。」
わあぁんっと泣きながら叫ぶ彼女。
「…栄子、あのー…」
「二人とも大っ嫌い、だー…」
ふらりと体が前に傾く彼女に、秀一と飛影は手を出しそれを支える。
そして、騒がしかった筈の空間が静寂に包まれる。
「「……。」」
そして、ちっと舌打ちをする飛影。
「興奮しすぎだ、この馬鹿が。」
力の使い過ぎで意識を手放した彼女。
「いちいちこいつに絡まれたら心臓が持たん。」
げっそりとした表情で赤い瞳を細め呆れた口調で飛影は呟く。
「……。」
「これからもっと手を焼くぜ、蔵馬。」
「あぁ、本当に。」
言葉とは裏腹に、手から感じる彼女の温もりに秀一は自然と安堵の笑みを浮かべた。
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