第67話 燻る片想い3
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「何もない。」
手を払われる。
しかし、それでも再び彼の頬を両手で挟めば彼女は自分の方へ向ける。
「何かある位分かる。」
「……。」
「しかも、それが私に対してだって事も。」
そうでなければ、あんなにも冷たい目を向けられるわけがないのだ。
「…ない。」
「ある。」
「……。」
忌々しそうに赤い瞳を細め栄子を睨むも、彼女は負けじと眉を吊り上げ彼を見据える。
「ねぇ、飛影。…私はあなたの事、友達だと思ってる。」
「……。」
「本当に感謝してる。返せないほどたくさんのものもらった…いつも助けてくれた。…私は飛影とこんな風になりたくない。ずっと仲良くしていたいの-…。」
微かに俯く飛影。
表情は見えないもののそれでも彼女はしっかりと意思を伝える。
「あなたとこんな風に喧嘩したくない。私に悪いところがあったならちゃんと言って欲しい。私、鈍くて、迷惑かけてばっかの馬鹿だけど…でも、飛影とこんな風に-…」
「…く、くくく」
飛影の肩が小刻みに揺れるのが視界に入れば、同時に耳に入る微かな笑い声。
それに思わず言葉を止める。
「え?…なんで笑ってるの?」
「くくくく…おまえは本当に俺をイラつかせる天才だな。」
「…え??」
「吐き気がするぜ。その甘い考え。」
ぎらりと光る赤い瞳。
嫌悪とも取れるその鋭い眼差しに栄子は目を見開く。
思わず彼の頬から手を外そうとすれば、その手を掴む強い力。
「っい、いた…!!」
「俺に感謝してるだと??」
そのまま掴まれた手が引かれる。
「いつも助けてくれたから、だと??」
「ひ、飛影??」
彼との距離が近くなる。
赤い瞳がまっすぐに彼女を睨みつける。
見たこともない憎しみのこもる瞳。
そしてどこか触れれば火傷をしてしまいそうな熱を帯びた赤い瞳。
「俺が善意だけでお前を助けたとでも思うのか?」
地を這うような低い声が響く
「…飛影は…優しいよ…?」
彼は一体何を言っているのか…。
痛みに顔を歪ませながらも言葉を発せば、身近で見据える彼の表情が冷たく嘲笑ったような気がした。
「…どこまでも馬鹿な女だ。」
そう冷たい声が耳に入った瞬間、さらに腕を引かれれば彼のソファに顔から倒れこむ。
「もうっ、何す-…」
ぎしり-…
ソファが軋む。
振り返った先にある双方の赤いそれが、真っ直ぐに彼女を見下ろす。
彼の腕で遮られた左右。
それに違和感を感じながらも彼の顔を不安気に見上げた。
「俺がなんでおまえに世話を焼いてやったか、教えてやろうか??」
さらりと髪を遊ばれれば、意味が分からずも自然と身が震える。
今まで彼に対して感じたことの無い悪寒が背筋を走る。
「どうしておまえの側にいたんだと思う?」
「……飛、影??」
まっすぐな熱の籠る瞳が見下ろす。
「俺にとってお前は連れじゃない。」
「…え…?」
「ただの…女だ。」
熱の帯びる赤い瞳。
欲する瞳がゆっくりと近づく。
それに一瞬放心するも近づく彼にハッとし「ちょっと待って-…」と、顔を背け慌てて彼の胸を押し返した。
その瞬間、微かな風と良く知る香りが鼻先を通ればぴたりと止まる彼の体。
それに恐る恐る片目を開ける栄子の視界に入るのは、ソファに突き刺さる赤い薔薇だ。
飛影は自分目がけて無数の薔薇が飛び交えばそれを素早く避け床に着地し、それを投げたであろう人物を静かに見据えた。
そんな中、彼女もどこか嫌な汗を掻きながらもソファから恐る恐るそーっと顔を出す。
(やばいー…)
銀の髪が靡けば、金色の瞳が獲物を鋭く見据える。
人間の彼とは性質がやや異なる彼の妖気。
その男はやはり人外の美しさを持つ。
妖狐・蔵馬ー…
「栄子、こっちへこい。」
金色の瞳が冷たく彼女を見据える。
それに、どこかぞくりと背筋が震える。
(…や、やっぱり、怒ってる!!さっきのだ!)
「飛影…おまえはどういうつもりだ?」
切れ長の瞳がさらに細くなれば、赤い瞳の男を睨む。
「……。」
「さぞ死にたいと見える。」
狐の殺気を含んだ凍るような妖気が辺りに広がる。
「ふん、たった数日でもう自分の物か。よほど余裕が無いんだな。」
そして、飛影も口元に弧を描けば皮肉を込めて低く言葉を紡ぐ。
そんな中、狐の顔色を伺いながらもゆっくりと近づく栄子。
見上げれば金色の瞳とばっちりと合う。
「おまえという奴は-…」
呆れた瞳。
その金色の奥に垣間見えるそれは微かな苛立ちと悲しみだった。
「蔵馬…。」
「先に部屋へ戻っていろ。」
「で、でも-…」
ちらりと彼女の視線が飛影に向けられる。
先程の彼の行動の意味を考える。
イラついていた為の行動なのか…
それとも-…
(…女っていってた…それって-…)
「私、まだ飛影と-…」
「戻れと、言っている。」
-…凍るような冷たい狐の声。
それに忌々しそうに舌打ちをする飛影。
「蔵馬…あのー…」
怒っているのだとは分かる。
原因が自分自身だという事も。
「俺は気が立っている。今言う事をきかんと、後で知らんぞ。」
「……。」
先程の自分の浅はかな行動が彼をイラつかせているということは明確だ。
だが…
「蔵馬、飛影は友達なの。だから蔵馬が帰って。大丈夫だから。」
まだ何も飛影と話が終わっていない。
これは自分と飛影の問題なのだ-…
せっかく躯が作ってくれた機会を無駄にも出来ない。
それにぴくりと銀髪の妖狐の眉が動けば、さらに不機嫌なオーラが彼を纏い栄子をも包む。
「だ、大丈夫だから…」
(ひ、ひぃぃ…)
背筋が本気で凍る様に寒いのはきっと気のせいなんかではない。
しかし-…
強引に腕を引かれる。
それに、一瞬驚くもその場に留まろうと努力するも狐の力にかなう筈も無い。
転びそうになれば狐は自分を肩に掲げる。
彼の背中を叩きながら暴れる栄子。
それに「おとなしくしろ」と低くも冷たく言い放つ狐。
こちらを見つめる赤い瞳に気付けば、顔を上げ体の自由が効かずとも手を伸ばす。
「飛影…私!!!!」
(まだ何も話せてなんかいない!!!)
しかし彼女の想いとは裏腹に、揺れる赤い瞳がゆっくりと伏せられる。
蔵馬が足で蹴った扉が目の前で閉じられれば彼女の手はただ無言の扉に向かって伸ばされるだけだった。
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