第67話 燻る片想い3
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「はぁ…はぁ…」
ざざんと鳴る波の音。
潮と酸の香りが充満するその浜辺の岩に身を寄せる女の姿がひとつ。
彼女は胸元の服を握り締め、青ざめた顔は酷く辛そうに歪み、額には汗が滲んでいる。
そんな彼女の背後にゆらりと映る影。
それに彼女はくすりと笑みを浮かべた。
「さすがに、何度も見逃してはくれないわけ…ね。」
ふふふっと微笑みながらも激痛の体に叱咤すれば顔を後ろに逸らしその人物を見る。
そこに立ち竦むのは彼女の様子に眉を寄せ顔を歪ませた、おしゃぶりを咥えた青年。
「ユーリ…」
苦しげに彼女の名を紡ぐ彼は閻魔大王の息子-…コエンマ、その人物であった。
**********
何度も悩んだ
寝ないで考えた時もあった-…
それでも自分のどの所業が彼を傷つけたのか、怒らせたのかは分からない-…
-…頭を使うのはやはり得意ではない。
「飛影…あの-…話が…」
ある時は、彼の食事後に彼女が声を掛けるも颯爽と逃げられ
「居るんでしょう?飛影。」
またある時は、直接彼の部屋に行くも居留守を使われ、時に姿を見つけ追いかければ足早に近くにある窓から外に飛び降り、逃げられる…というそんな始末で。
「飛影!!!それ以上無視すると、これから飛影の事チビって言うわよ!!!」
少しでも引き止め止めてやろうと、本人が気にしている事を言えば、ぎろりと今にも殺されそうな視線が栄子を射抜くわけで。
(うん、やめよ。これは火に油だ。)
あれから数日…栄子と飛影の関係は相変わらずであった。
それに栄子が痺れを切らして行くのは至極当然の事である。
そして、彼女が考えに考えた結果-…
「貴様…。」
赤い瞳が忌々しそうに目の前の人物を射抜く。
だがそれは栄子ではなく彼女の隣にいる人物に向けられる。
躯に呼び出され彼女の部屋に来た飛影。
来て早々目に付いた栄子の姿に、即帰ろうと踵を返す彼だったが、躯が微かに呟いた言葉に足が止まる。
赤い瞳が鋭く躯を睨む。
それに、ん?とわざとらしく瞳を細める躯。
その隣では頭にクエッションマークを浮かべた栄子が二人を交互に見る。
息を吐く様に呟いた躯の声が彼女に聞きとれるはずもない。
『ばらすぜ??』
こういった事に関しては栄子の為と言いながらも自分が楽しみたいからこそ乗っていてもおかしくはない。
「可愛いこいつの頼みだ。何か問題でもあるのか?飛影よ。」
ソファに腰掛け、心底楽しそうに笑みを浮かべる躯。
その隣にいる栄子は空笑いを浮かべながら頭を掻く。
「飛影…お願い。話を聞いて。…ちゃんと話したいの。」
「……。」
躯がソファから身を起こす。
そろそろ仕事に戻るか、と気だるそうに言う彼女に疑いの目を向ける飛影だったが、ちょうど奇琳が部屋の前まで来る気配を感じればあながち嘘ではないのだと納得をする。
そして、通り過ぎ様に一言。
「逃げるなよ。」
「……。」
くすりと笑みを漏らし去って行く躯の後姿を、飛影はただただ忌々しく睨むのだった。
そして-…
「あ、座って飛影!!!立って話すのもなんだし…。…お願い。」
伺うように言う彼女。飛影は一瞬躊躇するものの、じっとこちらを見る不安そうな表情の彼女に息を付き、自分専用のソファにどかりと腰を降ろす。
そして、その前に椅子を持ってきて座る栄子。
自然と向き合う形になれば、飛影はすっと瞳を逸らす。
それに内心ショックを受ける彼女だったが、気を取り直そうと首を振れば意を決して真っ直ぐに彼を見据える。
「飛影…躯さんに頼んで、こんな騙す感じになっちゃって…ごめんなさい。」
まずは謝罪だ。
謝れば彼女はぐっと膝の上で拳を作る。
「あ、あのね…た、単刀直入に言うね。」
「……。」
「私…何したんだろう。いくら考えても分からなくて…ううん、逆に一杯あり過ぎてどれなのか、分からなくて…。だから、本当に悪いんだけど、教えて欲しいです。…ちゃんと治すから。」
揺れる赤い瞳が彼女に向けられる。
それに一瞬答えてくれるのかと思いごくりと喉を鳴らすも、舌打ちと共に再び瞳を逸らされる。
「……簡単には言えない事??」
彼女の瞳が不安気に揺れる。
「…俺に構うなと言った。」
「そ、それは…!!私、承諾してないよ!!??」
「……話す事は無い。」
「うそつき。」
「本当だ。」
「~~~~~っ、もう!!!!!」
栄子は彼の顔を両手で挟めば、ぐいっと自分の方へ向かせる。
「飛影、ちゃんとこっちを見て。しっかり言ってくれなきゃわかんないよ。」
栄子にとって彼は友人であり心から感謝をしている、そして過去を辿れば命の恩人でもある。
このままでいいわけがない。
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