第66話 燻る片想い2
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「俺さぁ、あんたはあいつの事もういいのかと思ってたんだけど…。」
それは夕食後、自室に戻ろうとする飛影に掛かる声。
わざわざ待っていたのか。
自室の側の壁に腕を組み凭れている少年・修羅は微かに口角をあげ探るような視線を彼に向けた。
それに呆れた様に瞳を細める飛影だったが、そのまま少年の前を横切れば自室の扉に手をかける。
「え??無視??酷くない??」
「…疲れてる。休ませろ。」
「…傷くらい治してもらえばよかったのに。栄子に。」
瞬間、ぎろりと赤い瞳が修羅を睨めば、少年は楽しそうに口元を緩め、壁から身を起こせば腕を頭の後ろで組み、機嫌悪いね…と笑いながら飛影の顔を覗き込む。
「あんたが栄子にあんな事言うなんて意外だったよ…でも、あれってあいつ可哀想なんじゃない??本人かなりショックそうだったし…。」
盗み見か。やっかいな奴に見られたものだと飛影は不愉快そうに眉を寄せる。
「まぁ、鈍いあいつもどうかと思うけど。でもさ、あんたもかなり自分勝手だと思うぜ??狐と引っ付けておきながら、気に入らないとか。」
「…修羅、何しに来た。」
「うーん…どんな心境なのかなって。」
にっこりと笑みを浮かべる目の前の少年に、怪訝そうに眉を寄せる飛影。
「先に気持ちを伝えていれば言えば何かが変わっていたかもしれないとか、考えちゃう?」
「……。」
「あいつ惚れ易そうだからなぁ、しかも押しに弱そうだし…。確かにあんたなら意識されたかもしれないね。」
「あいつは昔から狐だけだ。」
赤い瞳が修羅を射抜く。
それにきょとんとする少年。
飛影は舌打ちをすればそのまま自室に入っていく。
後ろから、おーい!!と呼び止める修羅を無視して。
入った先で扉に背をつけ凭れる。
そう、分かっているのだ。
栄子がずっと秀一…蔵馬だけだという事など。
栄子自身が気付いてなかった時期が長かっただけ…
否、気付いても気付かない振りをしていただけか…
そんなもの、狐程とは言わないもののずっと側で見てきたから分かっている。
「俺さぁ、正直あんたと狐が羨ましいんだ。」
扉越しで耳に入る修羅の声。
自分が未だここにいるのを察してか修羅も扉越しに凭れ話しかける。
「あれに必要とされてるあんたらが。」
「……。」
「時間って関係ないって言うけど、信用とか信頼ってやっぱり時間な気がするんだよね。それってかなり強いよね。」
「……。」
「出会って数ヶ月の俺は生まれた時から側にいるあいつや、それより短くても付き合いのあったあんたが羨ましい。」
真剣みの帯びた修羅の声に、どこまでも妖怪に好かれる女だと心の中で呆れる。
未だ話そうとする修羅に、それ以上聞く気もない飛影はそのまま奥に進みベットに身を投げ出し仰向けなる。
それに気づいた修羅は、放置!!!??酷いな~…と喚くも、それでも何も答えてくれる気のない彼に、しぶしぶと退散する。
-…少年の気配が消えれば飛影は再び厄介な思考に捕らわれる。
散らつくのは、青くなりながらも泣きそうだった栄子の顔。
再度伸ばされた少し震えた彼女の手を振り払えばさらに歪んだその表情。
まっすぐに自分の瞳を見つめ酷くショックを受けていた-…
それに罪悪感と、どこか優越感を感じたのは事実。彼女の瞳は自分だけを映し言葉と態度一つであぁも色を変える。
だけどだ-…
忌々しそうに舌打ちを打つ。
自分勝手な感情を彼女にぶつける時点でどれだけ自分は子供じみているのか。
隠していた思いは確かに狐と彼女が恋人になった時点で表立った、躯や修羅に言われた事は否定できない。
生命の違い、種族の差を受け入れた娘。
自分が先に想いを伝えていればあれは狐への想いに気づくことはなかった-…だろうか。
愚かで馬鹿馬鹿しい思考が巡る。
全て今更だというものを-…。
思考を切り替えようとごろりと寝返りを打ち瞳を伏せるものの、そんな簡単に切り替えられるものならば自分はこんなに傷を負うわけもなかった。
体力を酷く消耗した体。
それでも夕食を取れた時点で眠気が未だ来てない事を告げる。
忌々しい思考に捕らわれ寝たいのに眠れない…
疲れているのに休めない
(苛々するぜ。)
薄っすらと瞳を開ける。
自室に近づく見知った気配。
そして扉を遠慮がちにノックする。
それに赤い瞳だけが扉の方へ向く。
「…飛影?…いる?」
様子を伺う弱弱しい栄子の声。
だが、それに答えることは無い。
「怪我…治したいなと思って…。」
「……。」
「あと、ちゃんと話したくって-…だめ、かな??」
下手に伺う彼女の様子によほどこたえたのだろうと思う反面、自分の先程の行動に罪悪感を感じるものの、だからといって顔を合わす気にもなれない飛影は赤い瞳をゆっくりと伏せたのだった。
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