第66話 燻る片想い2
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怒らせた事は多々あった-…
皮肉を言われることも一杯で
それでも言葉とは裏腹に優しい彼に甘えていた
だから-…
『迷惑だ。俺にこれ以上構うな。』
『二度はいわん。俺に近づくな。』
そう低く放った言葉にも驚いたが、なによりも-…
真っ赤な瞳の奥に見えたその感情に-…
息が止まりそうだった-…
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パタンと扉が閉まる。
それと同時に香る夕食の香りと台車の音。
「栄子、食べようか。」
秀一は台車の上の料理を栄子の前のテーブルに並べて行く。
それにゆるりと視線を上げる栄子。
「秀ちゃん…私-…」
「だめだよ、ちゃんと食べなきゃ。」
「……。」
再び視線を落とす彼女に、瞳を細め息をつく狐。
「…気にすることないよ、彼も戦闘後で気が立ってたんだ。」
「秀ちゃん…私って知らずの内に飛影に嫌われる事してるんだね。」
「……。」
「前もあったんだ。でも、時間が立てばいつも通りにしてくれるから、きっと甘えてたんだ。私鈍感だし…飛影って自分の気持ちいってくれないから…って私が悪いのに駄目だね。」
こちらを向き苦笑する彼女。
しかしその表情は今にも泣きそうに歪む。
「ごめんね、秀ちゃんといるのに。こんなに凹んじゃって…。」
「……ううん。」
「やっぱり部屋に戻る。夕食ごめんなさい。」
力なく秀一に笑みを向ける栄子。
それに狐の瞳に一瞬燻る感情が濁るものの笑みを浮かべ彼女の頭を優しく撫でる。
「わかった、何かあったらおいで。」
そして、椅子から立ち上がる彼女を静かに見据える狐だった。
- 秀一said -
確かに飛影の彼女の拒絶はこれまでにないものだったと狐自身も思っていた。
どんなに嫌味を言おうが怒ろうが芯の部分で彼女に気を許している飛影はいつでも受け入れていたように思う。
それこそ、初めて彼が彼女と知り合いだったと知ったあの日から狐も感じていた事だ。
気にする事ないよ…と彼女に言う
否、気にする必要などない。
本来ならそう言いたいー…
自分に泣き言を言って縋ってくれたらどれほどいいか。
そうすれば、微かな飛影への脅威も消し去れるというものを。
知らない内に彼を傷つけていたのだと…
優しい彼に甘えていたのだと…彼女は自分を責める。
悲しげに歪む彼女の表情に、ただ狐の心はどす黒く淀んで行く。
言ってしまいそうになる-…
まだ早いのだと分かっているのに-…
嫉妬する-…
やっと手に入れたと思っていたのに
生まれた時から彼女の側にいて培ってきた関係。
それは最大の強みでもあったのだ。
側に居る事が当たり前であり、依存する対象として。
なのにだ-…
「私鈍感だし…飛影って自分の気持ちいってくれないから…って私が悪いのに駄目だね。」
こちらを向き苦笑する彼女。
しかしその表情は今にも泣きそうに歪む。
「ごめんね、秀ちゃんといるのに。こんなに凹んじゃって…。」
彼女は分かっている…
自分の弱さも甘えも秀一は受け入れてくれると。
-…そう、今までがそうだったから。
部屋に戻ると言う彼女の頭を笑みを浮かべ撫でる狐。
蔵馬でありながら秀一だからこそできる見せ掛けの笑み。
表面とは裏腹な心情。
それに彼女は気付いてか、気付かずか-…
椅子から立ち上がり肩を落としたまま部屋を出て行く。
テーブルに置かれた湯気の上がるスープ-…
出来立ての料理たち-…
鈍感にも程がある。
蔵馬の嫉妬深さを知っているくせに別の男のことを真剣に考える-…
ソファに腰掛け、顔に手をあて上を向く。
「…やっかいだな。」
それは彼女に向けられた言葉か、それとも彼に向けられた言葉か。
指の隙間から覗く翡翠は嫉妬の色を乗せ鋭く光っていた。
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