第66話 燻る片想い2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
静かな月明かりの下。
魔界の森の奥にある草原は月明かりを受け一体が金色に輝く。
その場所に佇む男女の姿。
女はキラキラ光る草原に瞳を優しく細めればそのまま月を見上げる。
「魔界の月って本当に綺麗だわ。そう思わない??…鴉…。」
そよそよと心地良い風が吹けば、隣の男の真っ黒な艶のある長い黒髪は惜しむ事無く風に攫われる。
「そうだな。」
「これが感触…香り…少し離れていただけなのに、すごく気持ち良いのね。」
ふわりと鴉に微笑む女。
彼女の瞳が黒真珠の瞳と交わる。
伸ばされる白い華奢な女の手が鴉の頬に触れれば、それに自身の手を重ね祈るように瞳を閉じる鴉。
「すまない…。桃華。」
苦しげな鴉の声。
ゆっくりと開く彼の瞳が愛しげに、しかしどこか悲しげに揺れながらも女を見下ろす。
「何を謝るの??…私は心から幸せなの。これ以上の幸せなんてないわ。」
「……。」
「だから…気に病まないで。お願い。」
「…俺は-…おまえを忘れはしない。」
「ふふ、最高の殺し文句ね。まさか、あなたからそんな言葉聞ける日が来るなんて思いもしなかったわ。」
言葉とは裏腹に今にも泣きそうな顔で微笑む桃華。
「私はちゃんと彼女の代わりになれたんだね。」
複雑な心境が渦巻くー…
それでも今彼が自分を必要としてくれている事実だけで彼女は救われていたのだ。
-…心から。
「……桃華。」
「例え他に好きな人が出来ても忘れないで、鴉。私はあなたが幸せなら幸せ…なんてもう綺麗な事言えないから。」
伝う彼女の涙を男は指で掬う。
「分かってる。」
揺れる黒真珠。
真っ直ぐに女だけを見つめる瞳。
*******
嘘でも彼が『代わりではない』と言ってくれるのを期待しなかったわけではなかった。
魔女に頼み一時の命を自分に与えたのはまたもや彼の気まぐれかとも思ったが、明らかに以前とは違う彼の様子に、どこか淡い期待を抱いてしまっていたのは事実。
それでも彼の栄子への想いは決してそんな簡単なものではないのだと側にいた桃華自身が一番分かっていたのだのも本当だ。
だから分からない。
否、分かりたくない…
自分が何度死のうが彼は決して自分のものにはならない。
それ位の自分への想い。
だから-…
「桃華、俺の中の秀忠はまだ栄子を愛している。」
「……。」
聞きたくないのに、残酷な人だと桃華は苦笑する。
「だが、俺は-…」
秀忠と鴉は同じだと彼は以前そう自分にいったのだ…
だから-…
「鴉は、おまえを必要としている。」
同じだと以前、彼は桃華に言った。
白くて長い指が女の頬を滑る。
「愛してる、桃華。」
それに目を見開く桃華。
「遅くなって、すまない。」
悲しげに微笑む鴉。
女の開いた瞳から流れる涙。
「…ほん、とう??…私が可哀想だから言ってるとかじゃ、ない??」
やっとでた言葉は苦しげに掠れ、目の前の男の真意を探る。
「俺にそんな良心があると思っているのか?」
苦笑する鴉に、徐々に歪んでいく女の表情。
「鴉!!!!」
男の胸にしがみつく。
彼の香りに、温かい鼓動…
彼が生きている証。
女の背に回る力強い鴉の腕。
生きている二人。身に滲みる互いの体温。
「私、本当はすごく嫌だったの!!あなたはいつも彼女のことばかりで!!でも、あなたに嫌われたくなくて…。いつも聞き分けの良い振りしてて…でも、でも…」
胸に顔を埋め想いをぶつける。
そんな彼女の様子に、一瞬驚く鴉。
しかし、すぐに笑みを浮かべる。
「利口なものか。勝手にあれを殺そうとすれば、勝手に死んだ女だ。」
「っ!!!」
「俺を残して。」
驚き顔をあげた女に落ちる影。
長い黒髪と黒真珠の瞳で視界は覆われれば、桃華は初めて感じる彼の想いに静かに瞳を閉じた。
-…女など性欲処理の理由以外必要としていなかった-…
なのに、愛しいと思うなど-…
鴉は自身に悪態をつく。
いつからか桃華がいる事が当たり前になりいつの間にか触れることに臆病になっていた。
あれが自分に触れないと悩んでいたのは知っている。
だが-…
触れれば自分の生き返った目的も理由も全てが意味のないものになりそうで、俺はおまえに触れなくなったんだ。
触れたら自覚してしまうと分かっていたから-…。
唇から想いが溢れれば男は彼女をさらに抱きしめた…
秀忠としてではなく-…
鴉として、初めてのこの想いを逃がさないとばかりに。
胸に軋む痛みも抱いて-…。
・