第65話 燻る片想い
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そうなれば良いと思っていた-…
いまさら狐と争う気もなければ、彼女に自分の思いを打ち明ける気などない。
好きあっているのは見ていて明確。
ならば、うまくいけばいい…と思っていたのは、確かに本当だ。
なのに-…
ごごごご-…
大木が次から次へと倒れる-…
それでも線状の光が足りないとばかり走り幾重にも切り刻まれればそれは木の面影すらなくすほど細かく粉砕される。
そして、舞い上がる砂煙と塵-…
黒い炎を宿した男は息一つ乱さず、その場にただ静かに佇む、しかし彼はずっと頭から離れない忌々しい思考に捕らわれたままであった。
どれ位時間が経ったのだろうか-…
「飛影よ…本当におまえは不器用な奴だ。」
飛影に背後から見知った声がかかる。
振り返れば、腕を組み木にもたれながら呆れた瞳を向ける飛影の上司?にあたる躯の姿。
「不器用ではないな。自分の想いも伝えられんただの腑抜けだったな、おまえは。」
「……。」
「…おまえなら俺は喜んで手を貸してやったとゆうのに。」
「…俺の勝手だ。」
「あぁ、おまえの勝手だ。だが、見ていてイライラするぜ。認めたんじゃなかったのか??…あぁ、そうか、頭に感情がついていかないんだな?ガキだな、所詮。」
ふんっと鼻で笑い瞳を細める彼女。
「……。」
なんとでもいえ…と飛影は思う。
それでもイラつくのは仕方が無い。
「今更惜しくなったか。狐のものになれば更に欲しくなったのか?あれが。」
「…死ぬか、躯。」
聞き捨てならなかったのか、赤い瞳が鋭く目の前の女を見据える。
その様子に、ふふんっ鼻を鳴らし瞳を細める躯。
「それとも、狐を受け入れられるなら自分でもよかったのではないかと?まさかそんな事を考えているのか??」
赤い瞳に炎が宿る。
ちゃきり…と剣を構える飛影。
「それが理由だけではない、か??」
彼女の笑みが深くなる。
「……貴様-…。」
「執着することへの恐れか、失くすことへの…。おまえの母や故郷と同じ様に。」
「貴様…多忙だというのは嘘か??…よほど死にたいらしい。」
よくしゃべる野郎だ…と、忌々しそうに舌打ちをする飛影に、笑みを深める躯。
「今だから言ってやってるんだ。」
そう、栄子の今の状態だからこそ。
呪いも解け、健康をきたすことも無い。
彼女は時が来れば人間界へ帰る。
-…修羅の想いが分かっている時とは違う躯の心情。
そう、このまま人間界へ帰る前に-…。
狐と想いが通じた娘。
それはそれで良いのだ…。
彼女の想いを優先するのは彼女の幸せを願う躯にとっては必須の事。
だが躯自身、何より部下として友人として気に入っているのはこの目の前の男だった。
自分とどこか似た境遇だからこそ故の想いだろうか-…
押し付けるわけではない。
だが-…
「恐れるな、飛影。逃げれば癖になる。無理強いはしない…だが、おまえのそれはきっと癖になるぜ。」
過去を消すことは出来ない。
だが、それゆえ根付いてしまったものもある。
「……俺は、狐ほどあれに狂ってはいない。」
赤い瞳が揺れる-…
「狂っていないだと?…おまえはただ恐れているだけだ。」
「……。」
「本気で想い欲しがることを。」
" 拒絶 "を-…
『忌み子じゃ…忌み子…』
『氷河の国に男児はいらん』
『生まれて来なければ…あれが死ぬこともなかったのだ』
身を切る様な冷気が…
体を包む-…
俺は-…
ガキーン-…
閃光が走る-…
飲み込まれそうな思考を振り切る。
光る閃光を受け止める躯の瞳に映る飛影の歪む表情…
剣が躯の腕に遮られそれに食い込むも、それでも力を抜くことは無い赤い瞳の男。
心底忌々しそうに顔を歪め、その瞳は目の前の女を睨む。
「試合は終わったというのに、まだ戦い足りないか、飛影よ。」
くすりと笑みを零す躯に飛影は剣を一端戻すも、再びすばやく振り下ろす。
キーン-…
振り下ろされたそれを手で受け止める躯。
その風圧で周りの木々が吹き飛び地面がぼこりと凹めば亀裂が入る。
「おまえに、何が分かる。」
飛影の低い声が響く。
-…この胸の痛みも、この想いも。
「おまえは以前俺に哀れだと言った…」
『女を捨てきれずにいる…お前は哀れな野郎だ』と…
そう飛影が以前、躯に言った-…
彼女は瞳を細め嘲笑うかのように笑みを浮かべる。
「おまえの方が心底哀れじゃないか。」
赤い瞳が大きく見開く。
ズガーン-…!!!!!!
その瞬間、その森が半分ほど崩壊したとは言うまでも無い。
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