第65話 燻る片想い
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(苛々するぜ-…)
「本当に、感謝してるよ、飛影!!ありがとうね!!!」
目の前で両手を合わせ自分を見る彼女。
(…なんで、こんな奴…)
「飛影には本当一杯相談したし、なんとお礼を言って良いか…あ、今度一緒にご飯行こう!!私おごるよ!!!」
(へらへらしやがって-…)
「いらん。」
「あ、お金の事は気にしないで。これでも私社会人だから。」
にこにこ幸せそうに目の前で笑う女。
「……。」
そうじゃない…と言いたいものの、今のこいつには何を言っても意味が無い。
そう飛影は思っていた。
********
いきなり部屋にきた栄子。
まだ今日のダンスレッスンの時間ではない為、一体何のようだと思っていた飛影だったが、彼女の昨日とは明らかに違う表情に、一瞬で理解した。
『私、秀ちゃんとちゃんと恋人になれたよ?ちゃんと付き合うことになったんだよ。』
飛影には一番に報告しようと思って、躯さんより先に報告だよ!!と頬を桃色に染めながら嬉しそうに言う彼女に、血の気が引いていくような気がした。
-…わかっていた。
実際、早くそうなれば良いと思ってもいた。
そうすればこの中途半端な想いもきっと消え去ってくれるに違いないと。
彼女の言葉に『そうか、よかったな。』と言うものの、自分は今どんな表情で彼女を見ているのだろうかと思った。
酷く情けない面をしているに違いない。だが、目の前の女がそんな事に気付くわけも無く、ただ満面の笑みで『次は飛影の番だね』等と、意味不明な事を言い、うんうんと頷くのだ。
そして-…
「あ、そうそう、レッスンも秀ちゃんにしてもらうよ。飛影も忙しかったんだね、ごめんね??」
冒頭に戻る-…
「……。」
別に構わない。
だが、この昨日との急激な差は一体何なのか。
理由を知って頭で納得できるもの、胸の奥がずぶずぶと闇に飲み込まれる。
「飛影も幹部だから忙しいって、秀ちゃんが教えてくれたの。」
「…もう、平気なのか?」
昨日まであんなにも狐に緊張していた女のこの切り替わり様。
「うーん…まだちょっと緊張するけど、ちゃんと話してこうなってみたら、案外大丈夫みたい。もとい、幼なじみだもんね。」
へへへと笑う彼女。
それを赤い瞳を揺らしながらも、無言で見つめる飛影。
そう、お互いに話し合えばちゃんと解決できる問題だったのだ。
彼女の変に意識するからこそ生まれる過剰反応。
相手が秀一ならば尚更だったのだろう。
生まれた時から側にいて家族の様な気楽だった幼なじみ。それを男として見始め、酷く戸惑ったのだろう…。
そして、自覚すればするほどそれへの想いは明確に鮮明になっていき、気付けば不可欠の一人の異性であったと認識したのだ。
息を付きながら飛影は壁に立てかけた剣を取りベランダに向かう。
「え?…どこ行くの??」
「…気分転換、だ。」
振り返らず言う飛影。
どこか低い声色に栄子は首を傾げるものの、それを背に感じる飛影は舌打ちをしベランダから外へ降りる。
それを後ろから見る彼女は「変な飛影…」と呟くのだった-…
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