第64話 独占欲と愛情
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「秀ちゃん…だよ?」
彼に追い詰められ真っ赤になりながらも出てきた栄子の言葉に「え?」と固まる狐。
「…今までが今までだったから…な、慣れなくて…!!」
「……?」
「秀ちゃんに、こ、告白してから…どう秀ちゃんと接していいかわかんないし、しかもすっごく緊張して…」
「…こく、はく?…いつ?」
心底分からなさそうに目を見開く彼に彼女は眉を恥ずかしそうに顰める。
「…この前だよ?」
(やっぱり忘れてたんだ!!!!)
「今までお兄ちゃんみたいな存在だったから、こういうのいきなりでわかんなくって…」
絡む視線に耐えれなくなりふいっと逸らす栄子。
「……。」
「飛影に会ってたのも、色々話し聞いてもらってたの。今回はレッスンだけど、しゅ、秀ちゃんの事考えてたら…鼻血、でちゃって…」
「……。」
「私も、正直…今までが今までだったから、こういうのどうしていいかわからなくて、しかも、こんな気持ちも自分でも信じられなくて…。」
「……。」
「~~…って、聞いてるの、しゅうちゃ…」
何も言わない彼に、顔を上げる栄子の言葉が止まる。
そして、彼女の瞳は大きく見開いていくー…
翡翠に目が奪われる-…
心臓が止まる-…
「……本当…に?」
やっと出た彼の口から出る言葉はとても弱々しくて-…
悲痛にも似た切なげな表情は、見るもの全てを魅了するのではないかと思えるほど美しくて…
悲しくて-…
今にも…
泣き出しそうで-…
栄子は顔を歪め、彼の頬に手を伸ばす-…
細まり揺れる翡翠。
伸びてきた彼女の手を握り頬にあてる。
「…どうして、栄子が泣いてるの…?」
「…っ」
気付けばポロポロと栄子の涙が頬をながれて行く。
この涙の意図は栄子自身理解できないものだった。
ただ彼の表情を見て胸が痛み感情が溢れた-…わかるのはそれだけだ。
「ごめんなさい…秀ちゃん…私-…私、あなたを沢山傷つけた…」
そして同時に感じるのは彼に対する切実な思いと謝罪だ…。
だが-…
「謝るのは俺の方だよ、栄子。」
「……?」
「君を逃がしてやれなくて、ごめん。」
頬にあてた手を摺り寄せ瞳を伏せ、細まる翡翠が艶やかに光り彼女を見下ろす。
「…今更撤回させないから。」
次に現れるのは純白とは裏腹な妖艶な天使の笑み。
それをまともに向けられれば、次こそは気絶をしそうだ…と思う。
-…だが、今こそしっかり伝えなければと、真っ直ぐに彼を見据える栄子。
「私、私、秀ちゃんに似合うような女の人になるから!!!努力だってするよ?…この気持ちもまだ自覚したばかりだから、秀ちゃんからしたら全然なんだろうけど…でも、ちゃんと…というか、私は秀ちゃんがいない世界とか絶対考えられないの。」
そうあの時に分かったんだ。
あの不思議な幼い彼と過ごした世界で-…
(私には"彼"が必要なんだって…)
「だから…秀ちゃん、信じてほし-…」
瞬間落ちる影に鼻に香る香り。
それが唇に触れるも数秒で離れれば、至近距離の彼が優しく微笑む。
「なっ…!!!?」
「言葉はもういらないよ。」
「…え、う、うん?」
(あれ?あれ?あれれれ?)
驚いたせいか一気に涙も止まり、目の前の男の表情が見慣れたものになっていることに気付けば、それはとても機嫌の良いときに見る彼のそれだと悟る。
そして自然な動作で髪を耳に掛けられれば彼の唇が栄子の唇に触れるか触れないところで囁く。
「俺と同じ気持ちなんだよね、栄子は。」
艶を含んだ甘い声。
息が唇に掛かれば、思わず身が震える。
「栄子から、欲しい。」
それに驚いて、視線を絡めば-…
本当に倒れてもおかしくはない。
幾重にも重ねられ隠された彼の今までの表情が緩やかに解かれていくようで-…
残忍非道の妖狐・蔵馬は一体どこに行ったのか-…
冷静沈着の優等生である南野秀一は本当に彼なのだろうか-…
この瞳だけで、言葉がなくとも伝わってくる。
-…せっかく涙が止まったと思ったのに…と彼女は悪態をつきながらも-…
初めて頭を撫でられたあの時と似ているようで違う感覚に溺れる。
甘さと切なさが混じったこの思い
初めての意思表示の口付けは
甘い涙の味がした-…
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