第64話 独占欲と愛情
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そして-…
むぎゅっ
「……。」
げしっ
「っ…。」
「あ、ごめん、痛かっ-…」
がんっ
「った!!!あ、頭……」
「この石頭が…」
忌々しそうに舌打ちする飛影。
足を踏み膝で蹴り、挙句に顔を上げようとした栄子の頭が飛影の顎にクリーンヒット。
「…次は、ターンだ。」
「えっと、はい、ターン-…」
ばきっ!!!
「!!!、おまえ、なんでターンで肘をいれるんだ?」
「ご、ごめん、今わき腹にはいったよね?い、痛かったよね、今のは!!!」
栄子と飛影のダンスレッスン。
栄子のダンス音痴は思っていた以上に厄介なものだった。
足は踏むは、飛影の顎を石頭で頭突く。
ターンで回ればどうしてそうなるのか、肘鉄。
「落ち着いて、もっとゆっくり動け。あと顔も上げておけ。」
「でも足が-…。」
「基本は覚えただろ。後は俺にあわせればいい、おまえは動作が雑だ、もっとゆっくりと力を抜いて俺を見ろ。」
「……俺を見ろって、なんかやらしい。」
「死ぬか。」
「いえ、見ます。」
そして彼の顔を見ながら誘導されるように、動く。
「あ、さっきより楽かも…。」
「普段使わない頭を使おうとするからだ、馬鹿が。」
ふんっと鼻で笑われ、見下ろされる。
それでも嫌味に聞こえないのは彼の性格を知っているからだ。
「……。」
(それにしても-…)
視線が間近で絡まる。
「……。」
「……。」
(すっごく近い!!!)
彼の端整な顔があまりにも長時間近くにある。
いくら友人とはいえ、男。
手も握り少なからず体も密着するわけで…
(やっぱり秀ちゃんじゃなくてよかった…)
これが彼なら、確実に自分は気絶している、と栄子は思う。
心なしか飛影の頬が染まっている気がすれば、便乗して栄子自身の頬にも熱がこもる。
飛影ですらこんなに近ければ恥ずかしくなってくるのだ-…
「思った以上に、近いな。」
赤い瞳が逸らされる。
「…う、うん。」
どうして照れる!!!!???
こっちまでさらにてれるではないかぁ!!
という栄子の心の声が彼に届くわけもなく、レッスンは続くわけで-…
そして-…
時間と共に平常心になっていくのはある意味、彼女の得意技の様なもので。
否、切り替えが早い時は驚く程早いのであって-…
「……。」
「……ねぇ、飛影。」
「な、なんだ?」
じっと彼の顔を覗き込む栄子。
それに、まだ頬の赤い飛影は眉を寄せる。
「飛影、背…伸びた、よね?」
すでに彼女は平常心だ。
「………。」
「うん、やっぱり伸びた。第三成長期ってやつだ、飛影。」
「知らん。」
「え、なんで不機嫌になるの?伸びたんだよ??男の子ってそういうの喜ぶんだよね??」
別にチビとか言ってないのに…と思う栄子だったが、心なしか飛影は先程より機嫌が悪そうだ。
「……おまえ、蔵馬の時もそんな感じなのか?」
そして、不機嫌ながらもどこか呆れた瞳を向けられる。
「な、なんで秀ちゃんがそこで出てくるの??秀ちゃんだったら、まずダンスレッスンなんか出来ないわ!!」
出血多量で死んでしまう!!と栄子は首を振る。
「……。」
「…こんな事より、私はまず秀ちゃんに慣れるレッスンをしなくちゃいけないのでは…。」
俯けば一人ぶつぶつと呟く栄子に、飛影は瞳を細める。
「してみるか?」
「…え、何を?」
「俺が蔵馬の代わりになってやろうか、と言ったんだ。」
「へ???」
思いもよらぬ発言に大きく目を見開く栄子。
飛影はふいっと顔を逸らすも染まる頬は隠せはしない。
「俺を蔵馬だと思って話す練習をすればいい。以前、おまえは俺とあいつが似ていると言った。」
それに心配してくれているんだ…と心の奥が暖かくなれば思わず頬が緩む。
「ありがとう飛影。でも…いいの?」
確かに以前は共通する部分もあれば、確かにどこか似ていたように思う。
だが、今はそうは思えない…
だけどだ-…
「俺も奴になりきってやる。」
そう言ってくれる彼に、モノは試しかもしれない。と栄子は頷く。
「わかった、飛影を秀ちゃんだと思ってみる。」
そう言えば、微かに彼の赤い瞳が揺れこちらを見据えれば、それはゆっくりと伏せられた。
「え、えっとね、私緊張して、最近あんまり話せてなかったと思うんだけど…それは、やっぱり色々思うことがありまして。」
彼を見上げながら言葉を紡ぐ栄子。
「……。」
「秀ちゃんはずっと幼なじみだったから、どうしても一杯甘えちゃったし、迷惑もかけちゃったし…でも、私は本当にあなたが必要で-…」
言葉を止める。
そして、飛影~…と唇を尖らせながら呟く。
「…なんだ?」
「なんだじゃないでしょ。もっと秀ちゃんらしくしてよ、飛影、むすっとしてる。…練習にならないよ。」
「……。」
「どきどきまでは要求しないから、もっとこう雰囲気だけでも甘い秀ちゃんを演出し-…」
腕を引かれ、抱きしめられる。
それに一瞬呆気に取られるも、やりすぎだ!!!と思う栄子だったが-…
「好きだ。」
耳元で囁く低い声に、びくりと体が強張った。
「え…飛影…」
「俺はおまえが好きだ。」
もう一度囁かれる言葉。
耳に彼の息が掛かる。
「…秀ちゃんは、私の事おまえって、言わないよ??あ、でも蔵馬は言うわ。」
「………。」
「ねぇ、飛影…やっぱり、無理だよ、こういうのは-…」
彼の胸を押し返そうとするも、びくともしない飛影。
「あの…ひえ-…」
「愛してる。」
甘い声-…
だけど、どこか苦しげで酷く辛そうな声色。
彼から発せられたとは思えないほど、切なげな甘い声が頭の奥までじんと響く。
そう、それは秀一が囁くのと同じように。
(これは-…まずい…。)
飛影が言っているものと分かっているのに、秀一と被るこの声の感覚。
さすが、秀一の友人というべきか。
でもこれならば、本当に練習ができるかもしれない。
そう思えば、栄子もよしっと覚悟を決める。
「わ、私も、す、好きだよ??ってこの前言ったよね。」
(あ…やばい、やっぱどきどきする!!!!)
栄子の思考に過ぎる-…
切れ長の翡翠の瞳と形の良い唇。
肌理細やかな陶器の様な肌-…
艶やかな色のある眼差しと甘い声-…
「……。」
(あ…だめだ、秀ちゃんだと思えば思うほど心拍数が-…)
離れようとすれば、ぐっと回された彼の腕に力が入るのが分かる。
「続けろ…栄子。」
「え、あ、ちょっとやばい-…」
鼻の奥がつんとするこの感覚は-……
「??…」
「ごめん、飛影…」
やっちゃた-…
へらっとした声で呟く栄子。
それに彼女から離れ顔を覗き込む飛影の顔が酷く引きつったとは言うまでも無かった。
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