第63話 曖昧な想い色
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ティーカップに注がれる紅茶。
湯気が上がればほのかな香りが部屋に広がる。
注がれる二つのティーカップ。
注いだその主はティーポットをテーブルに置けば、早く飲めと向かいに座る男に促す。
それに苦笑する男は優雅な仕草でそれを取れば香りを嗅ぎ口に一口含む。
どうだ?と男の前で自信ありげに笑みを浮かべる人物になかなかだ、と男が言えば、そうだろうそうだろう…と笑いながら頷くこの城の主。
「この紅茶は…霊界から取り寄せたものか?」
男…否、黄泉が問えば、彼女は当たりだ…とさらに笑みをこぼす。
「…同盟は危うかったと聞いたが?」
紅茶をテーブルに置き躯を見れば彼女は瞳を細め鼻でふんっと笑う。
「…元は魔界と霊界と互いに利益があるからこそ飲んだ条約だぜ?…霊界に決定権は始めから皆無。それこそ魔界に守られているあれがみすみす自ら破棄するわけがない。」
「…煙鬼が理解ある鬼でよかったものだな。」
本当にそう思う。
下手をすれば魔界での彼女の立場も危うくする。
もちろん仮に独断で行っていたとしたらだが-…。
「あたりまえだ。霊界の契約違反、最下層を放置するなんざ達が悪い。色々探られたが…まぁ、あれも賢い鬼だ、薄々俺たちの狙いは気付いていただろうが、な。」
「危うい奴だ、だんだんと蒲飯に似てきたんじゃないのか?躯よ。」
呆れつつも笑みが浮かぶ黄泉。
「そうか?…元は狐の案だぜ?」
「それも、そうだったな…。」
あいつも変わったものだ…と続けてぼやく。
そして-…
「…そういえば、あの娘は最近寝つきが良いらしいな。」
あれも呪いのせいだったというわけか。
と、ゆっくりした動作で向き直り再び紅茶に口をつける黄泉。
それに今日はやけにおしゃべりだな…と瞳を面白そうに細め伏せる躯。
「今は良く寝てくれて助かる。一時は寝不足で死んでしまうのかと心配もした位だ。」
と、自身のティーカップを取りそれを口に含めば、うまいな…と笑みを浮かべる。
「おまえが心配とは、あの人間にはどこまでも驚かされるな。」
「…驚く、か…、そういえば、俺がはじめて見たあいつの記憶にはかなり驚いたぜ?」
頬杖を付きながら何かを思い出すように瞳を細め遠くを見る彼女に、黄泉は興味深そうに彼女を見据える。
「…真っ赤な-…魔界の月だ。信じられるか?」
魔界でもつい最近上がったばかりの稀な月。
今の魔界ではそうありえたものではなければ、人間界で見る事など不可能、秀忠と見る機会などまずない…。
だからこそ今世の記憶ではまずありえないのだろうと、躯は思ったのだ-…。
「なるほど。蔵馬といればまずそんな月の夜にあれを出すわけがないと…飛影も同じか。」
「あれの悪夢はそんな前世の記憶も混ざっていたのかもしれんな…。同じような業を受ければ、さらに記憶は混ざり加速する。-…もしかしたら、少なからず思い出しているかもしれないが…。」
口元に指をあてる彼女。
同じ業…
それこそ禁術に関わった事もそれの一つに違いないのだろう…。
「…ならば、魔界に飛ばされた事は、あれの業が関係あると?」
「…はっきりとは分からんが相乗効果かもしれん。元々狐の側にいたんだ、嫌でも奴の妖気から何かしらの影響は受けるだろう。」
蔵馬の妖気に感化され霊力が跳ね上がることはあってもそれで魔界に呼ばれるなどありえない。
だが、さまざまな業や前世、禁術の呪い基ではきっかけになってもおかしくはないのではないかと躯は思う。
「…興味深い内容だ。出来ることならあの人間の娘の体の中を見てみたい。」
そんな黄泉の発言に、狐にもう一回殺されるぜ?と笑う躯。
それに過去に経験のある黄泉は、冗談では済まなさそうだ…と苦笑する。
「魔界では一度目は毒花の巣に落ちてる。二度目は…海だ。」
飛影との出会いの場。
そして、躯自身と出会ったあの時。
「……父親が、殺すつもりだったというわけか。」
「さぁ…な。だが二度目は妖精が助けてくれたみたいだ。海では蔵馬の妖気を持っても長時間耐えれないのは確かだ。…俺の花壇に置くあたり助けているのか微妙なラインだが…。」
だがそのせいで俺の立場はその後散々だったんだぜ?と笑う。
躯の脳裏では飛影に責められ蔵馬にも殺気を浴びせられた記憶が蘇る。
あの時は何も言わなかった、あれはあれで当時は楽しんでいたからだ。
そして、事態があんなにも悪化するとは躯自身想像もしていなかった。
「…まぁ、これからは問題ないだろう。前世の業も断ち切られた。」
本当に面倒な人間だった…と面倒くさそうにだが嬉しそうに言う躯に、黄泉も微かに笑う。
「あとは…見守るだけか?」
「…そうだな。貸しもかえさんとな。」
やれやれと息をつく彼女。
それになるほどな…と微かに笑みを浮かべる黄泉だった。
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-----…
いつの間に寝ていたんだろう…
視界に入るのは部屋の天井-…
そして、もう一度眠りたくなるこの安心する香りに再び瞳を閉じる…。
「…?」
-…なぜ、安心する香り??
そう、安心する香りのはずだったのに-…
いつからかこれはそれだけではなくなった。
「!!!!??」
横を見れば彼のドアップが目に入る。
それに一気に顔に熱が集まるも、なぜこうなったのかを思い出そうと頭を捻る。
ばくばく鳴る心臓の音に、これで彼が起きてしまうんじゃないかと不安になるも、疲れているのか彼が起きる気配は無い。
そっと布団から抜け出し、彼の肩にそっと自分の上着を羽織らせる。
開いたベランダが目に入れば、彼が部屋に勝手に入り、ドア越しに眠ってしまった自分をベットまで運んでくれたのだと理解した。
きっと様子のおかしい自分を尋ねて部屋まできてくれたのだろう。
というものの-…
さて、これからどうするか。
時間を見ればそろそろ約束の時間が迫っている。
魔界統一トーナメント本戦が終わった後も就任式まで続く躯の城下で行われる祭り。
修羅が祭りに行こうと誘ってくれた今日。
ならば、ちょうどいい機会だと思った。
以前なら秀一と二人で行けたであろう祭りも今なら緊張で死んでしまうかもしれない。
だから、修羅の提案に乗り皆で行こうと栄子はそう持ちかけたのだ。
その瞬間、若干修羅が不機嫌になった様な気もしたが、相変わらずの鈍い栄子が彼の感情の起伏に気づくことは無い。
(どうしよう…秀ちゃん気持ち良さそうに寝てるし、起こしちゃかわいそうだよね。でも、約束しちゃったし…。)
そして-…
「あれ?蔵馬は?」
城の入り口で両腕を頭の後ろに組み壁に凭れ待っていた修羅は栄子の姿を見つければ、首をかしげる。
「いや、秀ちゃん寝てるの。起こしちゃ可哀想だなって思って…さ。」
それにふーん…と軽く答える修羅だが、心なしか彼の頬は緩む。
そして-…
「そういえば、他の人たちは?」
栄子の目の前には修羅一人しかいない。
「あぁ-…皆、忙しいんだってさ。」
はははと笑う修羅。
しかし、どこか泳ぐ彼の視線に栄子は気付く事もない。
「え…飛影は昨日、今日は何もないって-…って、修羅君!!?」
もういいじゃん!!と栄子の手を引っ張る修羅。
「早く行こうぜ、俺祭りとか初めてなんだ!!」
早歩きしながらも、手を引かれこちらを振り返る修羅は楽しそうに笑う。
「え…、そ、そうなの?」
祭りが初めてとは意外すぎる。
「そうそう、だから俺一回行きたくてさ!!」
爛々とした瞳と嬉しそうな表情の修羅を見れば、栄子もどこか嬉しくなりくすりと笑みが零れる。
「そっか、なら楽しまなくちゃね!!」
祭りのいろはを教えてあげるよ、おねぇさんが…と冗談で言えば、修羅は面白そうに口元を上げ、「頼むよ、栄子」とどこか大人びた表情で返すので、心なしか栄子の頬が赤く染まる。
(…この子、将来絶対女ったらしになる。)
引っ張られる手を見て、静かにそう思う栄子だった。
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