第63話 曖昧な想い色
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魔界統一トーナメントは無事に終了し、優勝者も決まった。
「魔女」が優勝した…と聞いたが、実際まだ会わせてもらってはいない。
二週間後の就任パーティーで会わせてもらえる予定だ。
だが-…
『おまえも会った事のあるやつだぜ?』
と面白そうに言う躯さんに-…
「彼女」の姿しか浮かばなかった。
どこにいても就職に困らない上司だな…と羨ましくなる。
だが、人間界に帰っても彼女がいないのだと思うと、どこか悲しくもなった。
帰るのはパーティーが終わった次の日。
そう、帰るんだ。
彼と、南野秀一である蔵馬と一緒に-…。
うん、だからその前に-…
そう、だからその前に!!!
……ん?その前に、なんだ??
あ、そうだ。
自然に話せるようになって…
普通に前にみたいに話せるようになって-…
でも…
普通ってなんだ?
私、彼と今までどんな風に接していたんだっけ??
************
「しゅ、しゅしゅっしゅ…秀ちゃん!!!」
それはある昼下がりの午後。
昼食を取り部屋へ戻ろうとする彼に後ろから呼び止める声がかかる。
それに振り返り自分を呼んだ彼女を見て、微笑む秀一。
「どうかしたの?栄子。」
それに真っ赤になりながら視線を泳がせる栄子に、またか…と思う秀一だったが、彼女が話すのをじっと待つ。
そして意を決したように顔を上げる彼女に…秀一は心底、後悔した。
「あ、あのね…今日、今日の夜、皆でお祭りにいかないかって…しゅ、修羅君が言ってて…」
潤む彼女の瞳が揺れながら彼を見つめ、どこか荒い息遣いの栄子。
「……。」
「そ、それで、しゅ、秀ちゃんも一緒にどうかなって、思って!!」
上気した染まる頬がさらに赤みを増す。
それになぜか笑みを浮かべたまま固まる秀一。
その口だけが薄く開く。
「栄子…何のまね?」
低くどこか影のある声色に、にっこり笑う幼なじみの黒い笑みが栄子を襲う。
「…え?な、何が?」
(やっぱり私何か不自然!!?)
彼の様子に、ぎょっとする栄子。
「……ふーん。」
確かにここ最近栄子の様子がおかしいとは思っていた秀一だったが、日に日悪化していると思われる彼女の様子に、さすがに今日のは見逃せないと思った。
-…気付いていないのだろう。
自分を、そして周りの男性を煽るであろう、その仕草に-…。
「わ、私、何か…へ、変かな??」
心配そうに頬を赤らめ潤む瞳で見上げる彼女に眩暈がする。
「何かの病気なのかな?栄子。」
黒い笑みが栄子をさらに追い詰める。
彼女の頭に手を置き顔を覗き込む秀一に、真っ赤な顔が徐々に青くなっていく栄子。
「最近様子がおかしいとは思ってたけど、いい加減にしないと…」
頭に置かれた手が彼女の頬に当てられば、親指が唇を撫でる。
「どうなっても、しらないよ?」
薄く開かれた翡翠の瞳は惑いの色と熱を含み、それが栄子を妖艶に見下ろす。
それに目を見開き固まる栄子に、どこか違和感を感じる秀一だが、再び真っ青な顔から真っ赤に変わって行く栄子に、「だから-…」と若干イラつきながらも言いかければ-…
「きゃぁぁぁぁ!!!!」
と鼓膜が破れるのではないかと思える程の叫び声と同時に、思いっきり突き飛ばされる秀一。
そして真っ赤になりながら瞳に涙を浮かべ口元を開閉させる栄子。
そして「秀ちゃんなんかもう嫌だ!!!」とやっと出たと思われる声で一括すればその場を猛ダッシュで去って行く。
そんな彼女の様子に呆気に取られる秀一-…
「………。」
そして、何か考えるように自分の口元に指をあて、瞳を伏せるも、再び翡翠の瞳がゆっくりと薄く開けば走っていった彼女の方角をじっと見つめるのだった。
だめだ…
だめだだめだ!!
普通になんか出来ない。
どうして今まで普通でいれたんだろうか。
私は一体彼の何を今まで見てきて、何に気付かなかったのか…
彼の翡翠に見つめられると体に電気が走ったように動かなくなる。
かといえば、酷く鼓動が脈打って苦しくて死にそうになってしまうのだ。
今まででも確かにあった-…
でも、こんなに酷いものではなかった。
自覚してからだ。
そして、告白をしてからだ-…
「どうしよう、このままじゃ…」
きっと嫌われちゃう…
おかしな子で、普通に話もできなくて-…
勢い良く部屋に入ればドア越しに背をつけずるずると床に座り込む。
「うう……」
どうしよう…
どうしよう…
その場で膝を抱え蹲る。
ノックをしても返事が無い。
それに秀一は部屋にいないのだろうか…
と思うものの、微かな彼女の気配をドア越しに感じれば微かな寝息も聞こえる。
(-…??…何かあったのか?)
秀一は急いで庭を周りベランダから彼女の部屋へ入る。
鍵がしまっていようと、蔵馬である彼にとっては何の支障もない。
そして視界の先に入るのは、ドア越しに凭れながら、微かな寝息を立てて眠る彼女。
それに疲れて眠っているだけか…と思う秀一は一気に安心するものの、それを優しく抱き上げベットへ運ぶ。
「食後に眠くなるなんて子供だね。」
優しくそこに下ろせば、気持ちよく寝ているであろう彼女を頬杖を付き見下ろす秀一。
いつかと逆だな…と思いつつも、数日前の事を思い出す。
-…魔女の契約報酬にと、体を差し出せと言われた秀一。
その意味が色のあるものだと知ったのは、栄子が戻ってくるであろうその日だった…。
彼女が助かるなら命さえ惜しくないと思っていた自分にとっては簡単な要求で大した意味も持たない。
前世とはいえ栄子の母親である彼女を抱くことに抵抗はあったものの、報酬は絶対。
これが終われば彼女と会える-…
そう思い、ただ魔女の言うがままにベットに横になり、魔女を待った。
そして、どれくらい時間が絶ったのだろうか…
いつの間にか寝てしまっていた事に気付き、すぐ側にある微かな気配にやっと彼女が来たんだな…と瞳をあけた。
夢で何度も見た彼女の顔がそこにあって、まだ夢を見てるんじゃないのかと一瞬でもそう思ってしまったのだ。
「君の母親は…結構な策士だよ。」
ベットで眠る彼女の額にかかる髪を指で掬えば横に流す。
どんなに時間が経っても色褪せない存在が再びここにある-…。
「君とまたこうして一緒にいられる。でも、俺はどこまでも貪欲だ。」
懺悔をして
許しを請いたい-…
こんなにまで君を追い詰めそれでも見逃せない愚かな自分自身-…
そんな俺を受け止めて欲しい-…
見下ろしたまま翡翠の瞳を細めれば、彼の指はそっとそれの唇を指でなぞる。
ぎしりとベットが軋む-…
彼女の顔に影が落ちる。
「ごめんね、栄子…。」
柔らかなそれに、狐はそっと唇を落とした。
愛しい愛しい人-…
今が永遠でないとしっているけれど-…
それでも-…
君の身も心も手に入れられるのなら-…
俺は何も欲しがらないから-…
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