第63話 曖昧な想い色
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「飛影…ありがとう、着いてきてくれて。」
森の中、歩く栄子と飛影。
夕焼けの中、黒い影が目の前に伸びていけばそれを追いかけるように歩く二人。
「…全くだぜ。なんで俺なんだ。」
息をつき悪態をつくも、そう嫌がっていないのは長年?の付き合いで栄子にも分かっていた。
「ごめんね、本当。わがままいって、なんだかんだで飛影って優しいから甘えちゃって。」
笑みを浮かべながらも、隣を歩く優しい友人に目を向ける。
ちっと舌打ちをするも、本当に嫌なら彼はきっとついてきてくれなかっただろう。
そして、今も早く帰りたいならこんな風に歩幅を合わせて歩いてなどくれないだろう。
「蔵馬なら喜んで着いてきてくれるだろうに。」
ぽそりと呟く飛影の言葉に、一気に曇る栄子の表情。
それに再びやれやれと息をつくも、眉を寄せる飛影。
「…どうなってるんだ?」
自覚したからといって全て解決、とはいかないらしい。
飛影はここ最近の蔵馬に対する彼女の接し方を思い出す。
「躯さんや驥尾ちゃんには話したんだけど…どうも、なんか…だ、だめで…。」
もぞもぞと言う栄子の顔が見る見る内に赤くなっていく。
「…何が、だめなんだ?」
両思いになったのなら何の問題があるのか。
この目の前の女は一体今までどんな恋愛をしていたというのだろうか…
怪訝そうに眉を寄せる飛影に、ばっと向き直る栄子。
「私!!好きっていっちゃったの!!なら、なら秀ちゃん知ってるって…言って-…」
「……。」
「それで、知ってるんだぁ…と思ったら、私その時からおかしくって。いや、知ってるからおかしいとかじゃないくて…なんていうのかな、私…今まで、どんな風に秀ちゃんと接していたのか急に分からなくなって-…」
赤くなったり青くなったりする栄子に忙しい女だと内心呆れる飛影。
「それで…秀ちゃんは今までの私が好きなわけで、それって…私が変わっちゃったら秀ちゃんも好きじゃなくなっちゃうんじゃないかって…大丈夫だったはずなのに、なんか色々考えちゃって、今の私は私だけど、前とは違うくって-…」
「落ち着け、栄子。」
「私、秀ちゃんがどっかいっちゃったらそれこそ嫌なの!!」
真に迫った彼女の焦った顔が目の前に来れば飛影は無表情ながら彼女の両頬を思いっきり左右に引っ張る。
「!!い、いひゃい、ぴえい…ひゃ、ひゃなして…」
「喚くな、騒ぐな…落ち着いて話せ。」
わかったか、と強く言われ栄子は勢い良く頷く。
そして-…
「ようはおまえは蔵馬のことを意識するあまり、普段の自分でいれないと。そして、そんな自分は蔵馬の好きになった自分ではないんじゃないかと、そう言いたいんだな?」
木の根元に腰を降ろす二人。
飛影の要約にうんうんと頷く栄子。
「それで、蔵馬がおまえから離れるかもしれないと?」
「……うん、今だってまともに話せないの。」
「…おまえ、今まで一体どんな男と付き合ってきたんだ?」
そんな事位で蔵馬の熱が冷めるわけが無い。
それで冷める位ならば自分がさっさと頂いている…と、飛影は影ながら思う。
「それって恋愛経験がモノをいうの?た、確かに浮気とかされた事もあったけど…。」
「秀一が、蔵馬がおまえの事を裏切ると思うのか?」
「…ううん、思わない。」
「……。」
なんだというのだ。
この女は一体何が不安なのだろうか。
「覚悟、したんだよ。」
ぽそりと呟く彼女に、飛影は苛立ちながらもじっと彼女を見つめる。
「彼が大事だって、失いたくないって思ったの。だから、失いたくない為にはどうするのか、考えた。」
「それは本当に…そういう類の感情なのか?」
「うん、そうだよ。だって私、秀ちゃんといると安心するし、今はすごく…」
「……。」
「死にそうになる。ここが、すっごく苦しくて-…」
そっと胸元を押さえる彼女に、飛影の赤い瞳が揺れる。
なぜ、自分ではないのだろうか…
飛影は額を押さえ、今だ胸の中を疼く感情を抑える。
「どうしよう、飛影。」
涙目でこちらを見つめる彼女。
-…無意識にも程がある、と飛影は本日何度目かのため息を着いた。
「おまえは無意識のたらしだ。」
「え…、なに?何の話?」
何いきなり意味の分からないこといってるの?と唇を尖らせる彼女に、どうして狐と同じ想い人なのかと再び答えの出ない思考に捕らわれる。
「何も無い。…おまえはさっさとあいつと引っ付けばいい。」
「ひ、引っ付く…ねぇ、飛影、どうやって引っ付くの?私、固まっちゃうんだよ?倒れそうになるんだよ?何で今まで大丈夫だったのか、不思議なくらい。」
「そんなのあいつにまかせろ。どうにかしてくれる。」
「どうにかならないから困ってるんだってば。」
「なら、おまえが近寄れ。いつもみたくへらへらして近寄ればいい。」
この相談は一体なんのか…。
正直うんざりしてきたぜ…。
「へ、へらへらって、ひ、酷い飛影。」
どちらが酷いのか…
どこまでも無神経のお前の方がよっぽど酷いだろ。
と飛影は呆れた瞳を彼女に向けたまま、お前次第だぜ…と彼は心底面倒臭そうに呟くのだった。
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