第63話 曖昧な想い色
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まさか…と思った。
もう二度と聞くことも無いだろうと思っていたその声で名を呼ばれ、その姿を確認しても夢だと思ってしまった-…
振り返り様、真っ黒な自分の長い髪が視界に映ればその先に映る、その女の姿。
「…栄子。」
彼女の名をつぶやけば、彼女はどこか切なげに瞳を細め微笑んだ。
「探したよ、秀忠。」
風と共に耳に入る彼女の声-…
それでも、秀忠…否、鴉は信じられないといった様に、大きく瞳を見開く。
「生き返ったみたいなの、私。だから、あなたともう一度話がしたくて、探していたの。」
-…微笑むそれに秀忠の胸が痛む。
生き返った事にも驚くが、自分を殺した相手を目の前に彼女は怖くはないのだろうか-…
そして、真っすぐに自分を見据えるその瞳にどこか彼女の意思を感じた。
少し離れた所に感じるひとつの気配。
それでも彼女が一人で自分と向き合おうとしてくれている事に鴉はただ静かに頷いた。
**************
「おい、驥尾…栄子はどこにいる?」
それは午前の涼しく晴れた日。
屋上で洗濯物を干す驥尾に、この城の主はやっとみつけたぞ…とぼやけばそう彼女に質問をする。
それにわざわざ屋上まで自分を探して聞くより他の人に聞いた方が早いのでは…と思う驥尾だったが、確かに朝早くから外出したと思われる驥尾の友人であり躯の客である彼女の事を聞くのは自分が的確なのかもしれないと思い直す。
「外出されましたよ、朝早くから飛影様と。」
それに一気に不機嫌そうに眉を寄せる躯。
彼女がこうもわかりやすくなったのは栄子が来てからだ。
「俺とのデートをすっぽかして飛影と出かけるとは良い度胸だ。」
「デートですか…。」
躯がどこまで本気で言っているのかは定かではないが、彼女を気に入っているのは確かだった。
ただ救いなのが躯が女だという事だ。
これで性別が男ならば彼女は冗談では済まなく「嫁」にされていたかもしれない。
「あぁ、帰ってきたらどうしてやろうか。」
手を顎に当て楽しそうに笑みを浮かべる躯。
主の悪い癖だ、と驥尾は思う。
楽しそうに彼女へのお仕置きを考える躯はそれはもう楽しそうで、まるで鼠を狩る猫のようだ。
「…蔵馬様も探しておりましたので、どうもすっぽかされたのは躯様だけではないと思います。」
「蔵馬…だと?あれは例外だろ。…約束なんか出来る状況じゃないぜ?」
「はぁ、栄子様も不器用な方で。」
先日、自分の気持ちを自覚した彼女。
気持ちを伝えたのだと…恥ずかしそうに自分に話してくれたのを驥尾は思い出す。
しかし、そのせいなのか彼女は意識しすぎて彼の前ではいささかおかしい。
以前も意識してしまい彼女の様子がおかしかった時期も確かにあったのだが…
以前と違うのは、彼女が緊張しながらも彼と向き合おうと、自然に接しようとしている事だ。
その様子は見ている者達からすれば微笑ましい(一部の者は微笑ましくないようだが)。
だが、明らかに不自然。
目は泳ぐは顔は真っ赤だわ、あげくに彼が触れれば硬直するか倒れるという始末。
時には逃げる…
これでは先が思いやられる。
幼なじみとして過ごしてきた免疫があってもいいと思うのだが-…
それに彼も気付いているのか気付いていないのか。…微妙である。
「アレの祝いも近くて忙しい時だっていうのに…。」
やれやれと息を着き呟く躯に、忙しいのならば遊んでいないでそちらに専念しては?と思う驥尾だが、彼女の言う「祝い」は魔界全土で行われると言っても過言ではないものなので、正直メイドである驥尾も少なからず忙しい。
その為、考えればこちらも疲れてくる。
「…そもそも、躯様が主催をなさるからですわ。もう少し部下の事を考えて-…」
「ほう、お前が栄子の変わりに俺の仕置きを受けると、そう言いたい-…」
「私に時間を費やして頂くなど滅相もありません、躯様の慈悲はぜひ彼女に。」
彼女の言葉に被せるように言えば、躯はおまえも言うようになったな…と楽しそうにくすくすと笑う。
「まぁ、あいつが帰ってきたら俺に知らせろ。優先事項だ、蔵馬に見つかる前にな。」
分かったな?と念を押し、妖艶に笑みを浮かべる躯に、わかりました…と頭を下げる驥尾。
去って行く躯を見つめながら驥尾は一人息をつく。
「栄子様、本当に罪な人ですね。」
そう呟きながら。
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