第62話 居場所Ⅳ
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そして-…
「あの…秀ちゃん、そろそろ離してくれないかな。…あの-…」
ベットの上で押し倒され抱きしめられたままの栄子。
いい加減慣れてきたとはいえ恥ずかしいに変わりない。
「…もう少し、このままで。」
「…!!!」
(め、珍しい!!てか、初めてかな…秀ちゃんが私に甘えてる!!)
「…栄子。」
彼は自分の首筋の髪に顔を埋めたまま呟く。
「…何?」
「…ごめん。」
「な、何が?」
謝られたことに驚いて思わず身を起こし、彼を押し返す。
それに従う彼にもっと甘えてくれたらなぁ…等と思ってしまうも押し返してしまってはもう戻せない。
翡翠が真っ直ぐにこちらを見ればどこか翳る。
「一杯振り回して傷つけた。怖い思いも沢山させた…、死なせてもしまった。」
「…生き返ったけどね。」
ふふっと笑みを浮かべるも、彼の表情は曇ったままだ。
「俺は君にどう謝罪していいか、正直分からない。」
彼の瞳に影が出来る。
橙のランプの光は彼の苦しげな表情を映せば、それを見ていた栄子もどこか苦しくなってしまう。
確かに、罪の意識に押しつぶされそうになり苦しかったのは事実。
今だって忘れてなどいない。
でもそれを知ってそれでも一緒に居て、支え続けてくれた彼がいたのも事実。
-…例え、彼が作った罪があったとしてもだ。
そんな事はもう十分承知。
生きる世界が違えば、モノの見方も変わる。
彼と私との違いはそこだった。
彼は蔵馬であり、秀一に他ならない。
だから、分かる。
「-…俺はどうしたら諦められる?…君を。」
苦しげに自分を見据え呟く彼。
翡翠の瞳に混じるのは金色-…
「自分でも、どうにもできない。死なせて置きながら未だに無理なんだ。」
熱のこもる金色が真っ直ぐに見据える。
手を掬われれば、彼の唇が指に当たる。
「この指でさえ何かが触れると妬いてしまう。」
手に口付けながら、上目でこちらを見つめる金色の瞳。
それに体の奥がじんっと熱を持ち、思わず身が震えてしまう。
「い、今は…どっち?」
この色気は元々蔵馬のものなのか…
それとも秀一自身が持って生まれたものなのか-…。
「どっちでも、同じだよ。栄子。」
悲しげに微笑む彼。
秀一も蔵馬も悔いていた。
自分のその欲に逆らえないもどかしさ…
彼女を欲してしまう異常な執着。
何も言わない栄子。
しかし、何も言えないのは目の前の男の自覚があるのかないのか、彼の流れる色気にやられているからだ。
しばし無言の時間が流れれば、彼はぽそりと呟く。
「…ここには、どうしてきたの?」
と。
それに、はっと顔を上げ、そうだった!!!と思い出せば、栄子はその場で正座をする。
「あの、助けてくれてありがとう!!って言いに来たの!!お礼だよ、お礼!!ありがとう、秀ちゃん。」
「お礼されることじゃないよ。俺が巻き込んだし。」
「ううん、私はすっごく感謝してるもん、あの時来てくれたから…私-…」
「もういいから。」
言いかけるもぴしゃりと言われたその言葉に栄子はぐっと詰まる。
自分に謝罪を…等と言って下手だった彼が、どういったわけか、何かがおかしい。
「秀ちゃん…あの…」
「なに?」
熱の籠る瞳がじっと見据える。
「あの-…」
「………。」
もじもじした顔の真っ赤な栄子。
あんな出来事があった後でも、秀一の中にある欲は収まることは無かった。
反省したとしても、結局悩みに悩んだ末、結論は何も変わることはなかったのだ…
あのまま目の前の彼女を魔女だと思った振りをし掻き抱けばよかったのだろうか。
否、今だ目覚めて体力が落ちている彼女にそんな乱暴なことはしたくなければ、求めているものはそんな一時のものではない。
-…ここにいる彼女の存在を大事にしたい。
だから、彼女の言葉を出来る限り受け止めたいのだ。
出来る限りだが-…
「私、秀ちゃんの事、好きみたい…。」
「…うん、知ってるよ。」
知っている。
昔からの君の自分への気持ちなど…。
兄妹の様で、家族のようで…
決して恋人のように特別とはいえなくても
それでも一時のものではないものだと。
それに「え!!知ってるの!!!?」と、目を大きく見開き驚く栄子に怪訝そうに顔を歪める秀一。
「知ってたんだ…そっか、そうだよね。秀ちゃんだもんね…。」
俯き顔を赤らめる彼女に、微かに眉が上がる秀一。
「………。」
これは、なんだ?
「あ、やばい…恥ずかしくなってきた!!とりあえず、また来るから、今日は帰るね!!とりあえずお礼言いたかっただけだから。」
はははと未だに真っ赤になりながら空笑いする彼女に違和感を感じる。
彼女はベットから降りれば走ってその場を去ろうとするが-…
「!!!」
その場で足をくじき倒れそうになるので、思わず手を引き身を寄せれば-…
「きゃぁぁぁ!!大丈夫だから、大丈夫!!ありがとう!!南野蔵馬君!!」
と思いっきり押し返し、そのままダッシュで去って行く。
その途中で何回か転ぶ音が聞こえたような気もしたが-…
ただ秀一はぽかんと彼女を去った方を見る。
甘い期待は今までだって何度もしてきた。
その度に蹴られてここまできたのだ。
それが-…
「まさか…ね。」
秀一は苦笑しぽそりと呟くのだった。
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