第62話 居場所Ⅳ
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薄くらい部屋-…
香る幼なじみの微かな香り-…
橙のランプが置かれただけの静かな部屋。
本来なら気配で気付く彼も、寝ていては気がつかないのだろうか-…
そっと寝室の扉を開ける。
大きなキングサイズのベットの上で仰向けに寝ている彼が目に入る。
(……服、着てる。)
それにどこかほっとする栄子だったが、それでもせわしなくなっていくのは自分の心臓だ。
彼の姿を見つけた途端、早く動く自身の鼓動。
(じ、自覚って…怖い。)
そう思いながらも彼の顔が見えるところまでベットの奥に回り込む。
寝ているなら起こすのは可哀想だ。
しかも、自分の気配で起きる事も無く爆睡しているのならば、よほど疲れているのだろうとも思った。
ベットの横でしゃがみ込む栄子。
寝ている彼の顔を覗き込む。
(本当に綺麗な顔…こんな素敵な人が私の幼なじみで、私を助けてくれて…そして-…)
ただまじまじと顔を見ていれば、ふいに彼の唇が薄く開く。
「人の顔を見て何が楽しいんですか?」
そして、薄っすらと彼の翡翠の瞳が開く。
その瞳が一瞬自分を捕らえ見開き揺れたものの即、呆れた様に瞳を閉じ再びゆっくりと開けばどこか翳りの帯びた翡翠が栄子の瞳を射抜く。
「彼女の姿になって、そんなにまでしたいんですか、あなたは。」
呆れを乗せた言葉が栄子の耳に入る。
それに意味の分からない栄子。
そんなぽかんとした表情の栄子に、見つめる翡翠はどこか苛立ちを含み、彼女の腕を引く。
視界がぐるりと回れば、彼の後ろに映る背景が流れる。
そして、背に感じる布団の感触と香り、そして温もりに自分の置かれた状況を把握しようと頭を捻る。
「…え?」
自分を見下ろすどこか冷たい翡翠と目があう。
なぜか苛立ちを含むその表情に栄子は置かれた状況にも関わらず彼をしっかりと見上げる。
(何かが、おかしい…?)
それに、さらに彼の眉がぴくりと動けば翡翠の奥に熱が籠って行く。
「…どこからどう見ても彼女ですね。むかつくくらいに。」
(彼は、何を言っているのか…)
徐々に熱の籠っていく秀一の翡翠。
しかし、彼はそれをよしとしないのかどこかでそれを拒もうと自分自身に苛立ってた。
「秀ちゃん…?」
「呼び方までやめてくれ。頼むから…。」
苛立つも、切なそうに瞳を揺らす彼に胸が締め付けられる。
ゆっくりと落ちてくる翡翠。
橙のランプの微かな明かりが彼の表情をさらに妖艶に見せた-…。
しかし-…
「……。」
「………。」
互いに見詰め合う距離は数センチ。
そして、彼の胸を押し返す栄子の両手。
「………。」
それにまじまじと見つめる秀一に、その下で真っ赤になり瞳を潤ませながら首を振る栄子。
「…栄子?」
怪訝そうに、そして探るような翡翠が栄子を見下ろす。
それに、こくこくと頷く栄子。
口を開こうとも彼の色気にやられてか、ぱくぱくと開閉するのみ。
そして、今にも心臓が破裂しそうだ。
それに、彼の翡翠に驚愕と共に色が戻れば、その体制で抱きしめられる。
それこそ苦しいくらいに。
あの世界でも彼は自分を力いっぱい抱きしめてくれた…
でもその時以上にどうしてか苦しいのは、この胸の痛さが、今が…本物だからだ。
そんな彼の行動に、さらに硬直する栄子だったが、彼が顔を上げ自分の顔を覗き込む。
頬を彼の綺麗な両手が挟めばしっかりと翡翠が自分を見据える。
先程とは違う翡翠。
温かくも、泣きそうなそんな彼の瞳。
「…栄子。おかえり。」
どこか切なそうに微笑む彼に、栄子も涙腺が緩みつつも返事をした。
「ただいま…秀ちゃん。」
と笑みを浮かべて。
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