第61話 居場所Ⅲ
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夢を見た-…
それはこの世界に落ちて少したった時-…
それは、私を拾ってくれた優しい人の夢。
彼女の優しさはとても分かりにくいけれど、本当は部下想いの優しい人。
出会った彼女はただ人をからかうのが生きがいの様な人でとても温かい人だと思った。
何を背負っていたかなんて私は何も知らなくて。
彼女がそれを言わないから聞いてはいけないものだと思っていたの-…
『俺がおまえと昔会っていたら俺はおまえを殺してる。』
夢の中で彼女は低い声で悲しげにそう言った。
『俺は世界が憎かった。』
『俺は目に入る全てが無意味だった。』
-…そうそう俺は奴隷だったんだぜ??
-…玩具だ
そう自分自身を嘲笑うように彼女は言った。
『だからおまえは俺と出会ったタイミングがよかっただけだ、それだけ。』
「…躯さん?」
『こんな俺はおまえにとっては汚いだろう?』
「そ、そんなこと無い。」
『いや、違うわないね。おまえは自分の手さえ汚してないにしろ自分のせいで死んだモノ達の罪を被って苦しい位だ。そんな綺麗なおまえが俺を汚くないというなら、ただの偽善だぜ??』
「…それは-…」
『それでも汚くないと?この手にどれだけ罪の無いものを手にかけたかおまえは見ていない。それを見たらおまえはきっと俺の事が怖くなって逃げる。』
悲しげに笑みを浮かべる彼女の瞳が真っ直ぐに栄子を見据える。
見せてやるよ-…
そう低く呟けば、目の前の場面が一変する。
どこか質素な薄くらい部屋。
そんな部屋の隅に膝を抱え包まるように震えている髪の長い少女。
愛らしくも美しい顔立ち。
それが躯の幼い頃だとすぐにわかる。
『この頃の俺はまだ正常だったかもな…』
彼女の声と共に場面が変わる。
下衆な笑いを含む彼女の父親だと言う男が、少女の上にまたがり雄を宿した瞳で彼女を組み敷く。
彼女の両手首には手械がはめられ、連なる鎖がベットの端に繋がれている。
脱がしやすい簡単な着物。
さらけ出された肌には傷や抉られた跡。
機械の様なモノがはめ込まれている部分もあった。
『奴隷どころか、色々改造されてな…しかも、麻酔なしでだぜ?死にそうだろ??数回切り刻まれれば気が狂ってくる痛さだ。』
躯の声と共に映像は流れる。
何も感情の読み取れない少女の瞳…
ただ為されるがままのその姿。
そして-…
-…自ら彼女は酸を被った。
「…む、…さん」
『泣くなよ、ここまでは俺が被害者か?だが、俺に殺された奴らにはそんな事関係ないんだぜ?』
そう言われれば夢の中でも自分の頬に流れるそれに気付く。
夢の中なのにおかしいものだ…と思うものの、拭うよりも目の前のそれをしっかりと見据える。
『そうだ、逃げないで。見てくれ、俺を。』
-…や、やめてくれ!!!!
ぎゃぁぁぁああぁぁあ!!!!
景色が真っ赤に染まる。
男から逃げ出した躯。
否、捨てられたといわれてもおかしくないのかもしれない。
彼女の憎悪が心を抉るように流れ込む。
殺せ殺せ殺せ-…
憎い憎い憎い-…
-…全てなくなればいい
『周りを壊すことでしか俺は自分の存在を見出せなかった…』
目の前で繰り広げられる惨劇。
泣き喚く子供も、赤ん坊も…
命乞いをする母親さえも手にかけた彼女の姿。
感情のない死んだ魚の様な瞳に、それでもどこか狂気にも似た笑みが浮かぶ。
『…この頃おまえと会っていたら、俺は-…』
映像の中の躯がそこから抜け出してきたかのように、自分の目の前に現れる。
(…!!!)
『怖いだろ?俺が…。』
「……。」
『俺はこれだけの罪を犯してきた。背負ってなんていないぜ、殺した奴らの顔なんて覚えてない位だ。』
頬に流れる熱いそれを拭うことなど出来なかった。
ただ、彼女のこの瞳を逸らしてはいけないのだと、ただそう思ったんだ。
『今だってこうやって俺はおまえを殺すかもしれない。現に今でも俺は色んな奴を葬ってる。』
首筋に触れる彼女の冷たい指が、つーと滑れば微かな痛みを感じる。
『引っ掻けばおまえなんか簡単に摘める命だ。』
そして、ぺろりと自分の指を舐める彼女の舌に映る赤。
それに、そっと首に手を当てれば微かな痛みを感じれば、手の平に自分の血を見る。
「……。」
『…分かるか?お前の背負っているものなんて、俺のに比べれば対したことないんだ。俺の方がよっぽど-…』
言いかける彼女の頬に栄子は手を当てる。
それに一瞬ぴくりと彼女の眉が動く-…。
『……おまえは自分を許せないくせに、人の罪を軽く見る。』
今俺がした事を忘れたのか?と、どこか苦しげに呟く躯に、栄子は首を振る。
『どこが違う?……まぁ、いい。俺が言いたいのは-…』
「躯さんと会えてよかった。」
『……。』
「今の躯さんと会えてよかったです。昔の躯さんは怖い。罪とか罪じゃないとか…私はあなたじゃないからあなたの苦しさもわからない。だけど、私はあなたと会えてあなたに命を救われたんです。」
それは事実でしょ?と涙を流しながら微笑む栄子に、躯の顔が歪む。
「自分を許せないのは、何もできないから。自分で何も変えることができないから…。」
『……栄子…ひとつ言っておいてやる。』
脅しも通用しないとは…
甘やかし過ぎたのは俺も同じか…と自分に呆れつつ、彼女の綺麗な手が栄子の頭に置かれる。
『大事なものを自覚しろ。』
「……え…」
『あと、逃げれば楽になれると思うな。逃げれば逃げるほど癖になるぜ。』
「…ひとつじゃない、じゃん。」
そういえば、そうだな…とふっと笑う躯。
そして-…
『あと…俺もだ。』
それに何が?と首を傾げ見上げる栄子の顔に影が落ちる。
良い香りが鼻に掠めれば、額に温かな感触と、軽いリップ音。
それにぎょっとしつつも、目の前の彼女はいつものように悪戯に微笑み瞳を細める。
「む、躯さん!!!!」
された事に気がつけば真っ赤になって行く栄子。
『固い事いうな。手間賃だ。』
けろっとした表情で言う彼女に、性別まで改造されてないだろうな…とどこか思ってしまう栄子。
「て、手間賃…?」
『あぁ…』
彼女はゆっくりと瞳を閉じる。
そして-…
『あとは-…』
彼女の姿がぶれていく-…
消えて行く彼女の姿…
「躯さん?」
『あとはおまえ次第だ。栄子、俺もあいつも…皆、待っている。忘れるな。』
微笑む躯の表情が視界からすっと消えて行く。
そして残る暗闇に差す光…
栄子は静かに覚醒していく意識に身を任せ瞳を瞑るのだった-…。
ただ彼女の言葉が耳に残ったまま-…
-…忘れるな、と。
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