第61話 居場所Ⅲ
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床に沈んで行く感覚がする-…
暗い所に引きずり込まれる。
どろどろとした深淵の奥へ-…
薄く瞳を開ければただ真っ暗な闇が広がり酷く息が苦しい。
変な感覚だ。
意識が-…
この闇に吸い込まれるような…
このまま、この闇に呑み込まれてしまうようだ。
「栄子!!!」
真っ暗なその空間に光が差す。
自分に近づく幼なじみの姿。
制服に身を包んだ…彼がこちらに手を伸ばす。
「俺の手をつかめ!!」
「しゅう…ちゃん?」
知っている顔。
赤い髪、綺麗な翡翠の瞳は酷く焦りこちらを見ている。
どこからそうみても、幼なじみの秀一…
なのに-…
「栄子!!!早く!!飲み込まれる!!」
手を伸ばそうとするも、すぐに元に戻す栄子。
「早く!!このままだと-…」
「違う。」
自然と出た言葉に今更驚くことは無い。
「栄子??」
何を言っているんだ?と怪訝そうに顔を歪めそれでもこちらに手を伸ばす秀一。
「あなたは秀ちゃんだけど、秀ちゃんじゃない。」
「…栄子…」
「きっと、私もあなたが知っている私じゃないわ。」
「………。」
この世界が自分自身が作り出した世界だろうと…
本当にある別世界なのだろうと…
「あなたは、分かってて手を伸ばしてくれる。私が栄子だから…。」
飲み込まれているのは自分の体なのか
それとも精神なのか
どんな世界でもあなたは秀一で蔵馬なのだ。
この世界がどんな世界であろうと…
自分の知る世界と何かが違っていようと…
それでも明らかに『彼』ではないのだと
心が知っている-…
「私は…」
銀が視界の端に揺れる。
すぐ背後から回される逞しい腕に感じる体温。
目の前の秀一は目を見開きこちらを凝視する。
彼の伸ばされた手が戸惑いながら下がる。
「これはおまえの栄子ではない。」
背後から聞こえる懐かしくも愛しい声。
ゆっくりと振り向けば金色の瞳が細くなりこちらを見据える。
「くら…ま?」
銀から赤に変わって行く髪。
それこそ見慣れた学生ではない幼なじみの姿。
体も一回り大きくなれば自分を見る眼差しもあの頃とは違う迷いの無い翡翠の瞳。
「秀ちゃん…」
「他の男に手なんか伸ばさないで。」
ぎゅっと自分を抱きしめる彼のその力強さに驚く。
「…栄子?それって-…」
すぐ前から聞こえるのは目を見開くまだ幼い秀一。
自分がもう一人居ることに驚き動揺しているようだ。
そんな彼に、後ろから自分を抱きしめる秀一は目の前の自分に低く言う。
「この栄子は君の知っている彼女じゃない。だから…返して貰う。」
抱きしめる腕に力が籠る。
奥に奥に沈んで行く。
どんどん上へと離れて行く幼い秀一。
「秀ちゃん…」
まるで海の奥深くに沈んで行くようなおかしな感覚。
それでもこの薔薇の香りに安心させられるのはもう仕方が無い。
「あれほど妖精に着いていくなっていったのに…。」
呆れた彼の声が耳元に響く。
「それに-…」
低くなる彼の声色が他へ向く。
同時に鼻を掠める知っている香り-…
「あなたも、もう十分でしょう?」
遠のいて行く視界に入るのはキラキラ光る貝殻の欠片-…
キラキラ
キラキラ
落ちて行く-…
崩れて行くその光りの先に-…
懐かしい誰かの顔が見えた気がした-…
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