第60話 居場所Ⅱ
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「栄子!!」
知っている声が背後からすれば締められていた首が開放され、霞む視界の先で女子生徒が激しく壁に叩きつけられる。
そして咳き込む栄子の視界の端で捕らえるのは、女子生徒の腕に絡む植物の蔦の様な鞭。
(あぁ…同じなんだ。)
視界に入る現実に意外と冷静でショックを受けていない自分は、本当はどこかで分かっていたのかもしれない。
そして、急遽口から入り込む酸素に咳き込み涙を浮かべながらも、側にかけてきた幼なじみを見上げる。
「大丈夫か!!?」
背中を優しく撫でながら、こちらを見る険しくも心配気な彼の表情に、きっと自分を責めているのだろうと思った。
-…あなたはどこまでも優しい。
それが誰かには残酷で冷酷でも。
そして、少し落ち着けば彼は栄子を見ながら安堵の息を付きつつも「まいったな…」と呟き翡翠の瞳を細める。
すでに彼の意識は背後に向いていた。
秀一の背後でゆらりと立ち上がる先程の女子生徒。
女子生徒が叩きつけられた壁には幾重にもヒビが入り凹んでいるにも関わらず、起き上がるそれに秀一は手ごわそうだと瞳が鋭くなる。
そして同時に秀一が困るのは目の前にいる幼なじみの存在。
彼女を危険な目に巻き込む気はさらさらない。
だが、きっとコレの目的は栄子自身なのだ。
どこで妖怪なんかに目を付けられたのか…
しかもなぜ今まで気が付かなかったのか…
最近の違和感はこれだったのか?
秀一は彼女に背を向け立ち上がる。
-…逃がせる時間はなさそうだ。
ある意味、自分の側にいてくれた方が幾分安全かもしれない。
そう思った時だった-…
聞き間違いかと…
そんなわけがないと…
彼女が微かに呟いた言葉に俺は、らしくもなく動揺した。
「秀ちゃん…もういいよ。蔵馬…も、同じじゃない…。」
蔵馬…をなぜ知っている?
君が、絶対知らない俺を…。
得体の知れないものを宿した女子生徒に視線を向けながらも、酷く焦った。
「どこでも、あなたは私を守ろうとしてくれるんだね。」
か細く呟く彼女の声が背後から聞こえたのと同時に、目の前の女子生徒が大きく裂けた口を開け自分に飛び掛る。
それに鞭で応対する。
なぜ?
なぜ、知っている?
目の前のソレと戦いながらも頭の中は彼女の言葉が回っている。
しかし、その動揺が目の前のそれに一瞬の隙を与えてしまった。
「っ!!!」
伸びたそれの爪が肩に鋭く切り込めば、秀一は体を引き体制を戻す。
「秀ちゃん!!」
すかさず自分の元へ走ってくる栄子。
そして、まるで当たり前の様にその肩に彼女は手を当てる。
青い光が彼女の手から出る。
濃度の高い霊気。
「…栄子…君は-…」
目を見開き信じられないといった瞳でみる秀一に、栄子は苦笑する。
「私はこの世界の栄子じゃないの。」
「……。」
「私はもっと先の未来、そして別の所からきたの。」
逃げようとしていた。
見ないようにしていた。
全部、ないようにしたかった…
そんな事、できるわけもないのに。
そして、私は-…矛盾していた。
『あなた』のいない世界で。
『あなた』を求めていた-…
「私はもう逃げちゃいけないんだよね。」
どんな時も、どこでもあなたは私を守ってくれる。
どんな栄子でも、あなたは私の側にいてくれてるのだろうと思う。
「秀ちゃんも蔵馬も、あなたは私にとってたった一人の幼なじみで、好きな人だよ。」
「…栄子-…」
目を見開く秀一。
そして、それに再び飛び掛ってくる目の前の女。
「だから-…」
目の前のコレが何かしらの因縁が自分にあるのは分かっている。
「私はもう逃げないよ。」
私は-…
ここで死にたくなんか無い!!!!
彼の前に飛び出せば、止める彼の声だけが響き-…
視界の端に、ひびが入ったような気がすれば、足元の床ががらがらと崩れていった-…。
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