第60話 居場所Ⅱ
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夢を、見る-…
毎夜毎夜同じ夢。
それは以前の様な血の海に魘されるものではない。
かといって罪の意識に押しつぶされそうな、あんな心苦しいものでもなかった…。
『栄子…』
見つめられる翡翠の瞳に胸が締め付けられる。
(秀ちゃん…)
その姿は少年ではない大人の彼。
この世界の彼ではない、よく知る幼なじみ。
『愛している、栄子。』
それは胸の奥が熱くなる言葉。
夢の中の彼はそっと私の頬に優しく触れる。
彼の端整な顔がゆっくりと近づく。
それに静かに瞳を閉じる…
夜中に目が覚める事は多々ある。
-…私が望むことは何?
平穏な血の流れない世界。
そして彼と生の差が無いこの世界。
なのに-…
(秀ちゃんは…)
今、側にいる"彼"も…秀一だ。
私のよく知る学生の頃の彼。
そっと起き上がれば、カーテンを開ける。
魔界にはないどこか優しくも儚さを感じさせる月明かりが顔にかかる。
視線の行く先は隣の家の窓-…
否、その先にいるはずの幼なじみ。
口元が小さくその名を呟く。
同じなのに違うような気がする理由ももう分かっているのに-…
「秀ちゃん…なのに、ね。」
そう小さく呟く。
ただ温かな日だけが過ぎて行く-…
毎日、学校に行って
友達と遊んで
幼なじみに今日あったことを話して-…
このままここにいたら私は忘れられる様な気さえした
なぜならこの世界には私のあの忌まわしき出来事もなければ、罪の意識に苛むこともないからだ。
まるで夢だったかのように
あの全てが嘘だったかのように
平和で平穏にただ毎日が過ぎて行く-…
願っていた日々
なのに…
常に心にぽっかりと穴が開いたような
どうしようもない苛立ちさえも感じて
意味の分からない虚無感に襲われる事も多々あった-…
私はどうしたいんだろうか-…
そして…
確か、こんな事一度もなかった。
自分と幼馴染は兄妹の様に仲がよく、周りにもそれは確かに理解されていたはずだ。
「幼なじみでもちょっとうざすぎなんだよね。」
うん、確かに周りをちょろちょろしすぎていたかもしれない。
「目障りなんだよ、あんた。何?南野君の事、狙ってるの?」
…この人知ってる。
優しい人だと思っていた、だがあれは外面だけだったのだろうか。
それとも当時自分は相手にされて無かったという事だろうか…
まぁ、それも仕方ない。
ただ今、女三人に体育館倉庫に拉致られてます。
「…誤解ですよ?私は、ただの彼の幼なじみです。」
そう幼なじみ。
それだけの関係。
でも大事にしたい人には違いない、家族の様に特別な人でもある。
特にこの世界にいれば栄子にとって、この世界の秀一はそれ以上でもそれ以下でもなかった。
「幼なじみにしてはちょっとあんたの懐きようは異様よ?トイレまで付いてきて何したいの?変態。」
「へ、変態!!?」
それには思わず復唱し、目を見開く栄子。
そして-…
次の瞬間、鈍い激痛が腹部を襲えば、床に倒れこむ。
「っ!!」
何が起こったのかなど、一目瞭然だ。
目の前の女子生徒が、自分のお腹を蹴ったのだ。
その痛みに思わず顔を歪ませる。
(う…激痛…)
お腹を抱え蹲れば次は背中を蹴られる。
「彼に言う?言ったら殺すけどいい?」
髪を引っ張られ顔を起こされ耳元で低く囁かれる。
視界に入る女性の顔は酷く歪み、まるで般若の様なその表情に思わず背筋が凍る。
-…知っているのだ。
その表情を-…
否、その奥に潜むその存在…
感じるのは、微かな妖気。
何かに取り付かれているのだろう。
残りの二人は青ざめこちらをただ見ている。
どうも後の二人はまだ人間らしい。
さすがにこの状況をいけないと思ったのか一人が止めに入るも人とは思えない力で振り払われ壁に叩きつけられえる。
それを見たもう一人は腰を抜かしその場でがくがくと震えだす。
「やっぱり今、殺しちゃおうかしら…」
華奢な女の手が女性のものとは思えないほどの力で栄子の首を絞める。
視界に入るのは歪む女の顔-…
それがぶれるように何かと重なる
(…だ、だれ…)
女性のその顔に重なっては消えるそれは見たこともない男の顔。
ぶれるように小刻みに映し出すその男の顔…
同時に脳裏に映る赤い月-…
その男の瞳の奥に宿る修羅に、栄子は酷く悲しくなった。
なぜかはわからない-…
だけど-…
ずっと昔も、あった気がする-…