第5話 出会い
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彼は店の近くにあるショットバーの店長だった。若社長とでもいうべきか。
人は見かけによらないなぁと栄子はつくづく思う。
栄子を始めて見たのはちょうど半年位前の事らしく、彼が今の店をオープンし、店に向かう途中で仕事帰りの栄子とよくすれ違っていたらしい。
そのおかげでいつの間にか顔を覚え、会うのが楽しみになっていたと彼は少し嬉し恥ずかしそうに話してくれた。
それからは、なぜか馬が合うというのだろうか。
思いの他楽しく、少しだけと思っていたおしゃべりも時間が経つのを忘れてしまう位楽しいものであった。
また会う約束をして二人は別れたが、久々に新鮮な感覚を覚えた栄子。
その日の仕事は、遅番始まりのラストであったが、ずっとご機嫌なままであった。
最後の最後までは。
「何か楽しい事あったのかしらー?」
ニヤニヤしながら栄子の顔を覗き込む中原。
「素敵な彼でも出来たのかしら?一時は心配して損しちゃったなぁ。…で、どんな人なの?」
「いえ、彼氏じゃないんで!!」
(てゆうか、知り合ったばかりでまだ何もしりませんから!!)
床をモップ掛けしている手を止めぶんぶんと首を振る。
「んーって事は候補ね!…ってゆうか、まさか…秀一君っていうオチはないわよね!?」
「な、なんでそこで秀ちゃんが出てくるんですか!!ただの幼なじみですよ!?」
やっぱり違うか。と笑う上司。
「あなたは色気の気の字もないものね、彼は大人だから乳臭いのはだめよ」。
「ち…乳臭い…」
人が気にしている事を、さらっと、しかも一言よけいに言う先輩である。
「あの人どうやったら落ちるのかしら?私の色気攻撃も無駄に終わってたし!」
ちっと舌打ちしながら彼女は店内にあるソファに腰掛ける。
店内はすでに閉店しているため客はいない。
窓から外を見るとキラキラと街が光る。
この近辺は若者よりの遊び場やお店、さまざまな種類の飲食店が多い。
「そういえば、ここ最近怖い事件多いわよね。」
彼女がぽそりと呟くので、外を眺めていた視線を中原に移す。
「人体爆破事件。知ってるでしょ?」
妖しく微笑み、細めた瞳を栄子に向ける。
「知ってます。数ヶ月前から起こっている20才前後の女性ばかり狙われる事件ですよね。被害者は皆首から上が吹き飛ばされてないとか…。」
想像していしまい、ぞっと背筋が寒くなり身震いする。
(きっと痛いだろうなぁ…。)
「そう、あと一つ被害者に共通してる事…知ってる?」
中原は立ち上がりモップを持つ栄子の手に、そっと自分の手を乗せると、色香漂う瞳を細め彼女の耳元で囁く。
「あなたみたいに髪の長い子よ?」
中原の甘い香りが鼻をかすめる。
そして、さらっと髪を撫でられると、思わず体が固まる。
「せっ…先輩?」
妖しく微笑む中原から目が離せずしばらくの沈黙が流れた。
「………ふ」
「先輩?」
「ふふふふっ……、ぷっぷはははははははっ、何?っまじなっちゃって!嘘よ、うーそ!」
中原はおかしそうにお腹をかかえ笑い出す。
「本気で今固まったわよね?ぷぷぷっ…」
「……先輩…」
自分の額に青筋が立つのがわかる。
「なぁに?ぷぷぷ…」
「…帰ります。」
(この人私で遊んでるわ…!)
中原の言葉と妖しく漂う仕草と色気に固まってしまった自分が情けなくなる。
自分に色気がないから免疫もないのかも、と変なことまで考える。
用具入れにモップを片付けると、自分のロッカーから鞄を取る。
「今日はデートなの?ひとりなら気をつけて帰るのよ?」
まだ少し笑いを残しなが中原は手を振る。
「……お疲れ様です。」
頬を膨らませ出て行く栄子。
残された中原は、笑った笑ったとお腹をさすると、窓から見える夜景に目を移す。
店内は本来の静けさを取り戻していた。
「…そろそろあっちに帰ろうかしら。」
ぽそりとつぶやく声は店内にやけに響いた。
彼女の瞳はひどく懐かしそうに遠くを見つめていた。