第59話 居場所
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この世界の私も異様に彼に懐いている様だ
南野秀一に。
秀一は私の世界にいたその人となんら変わりない
優しく綺麗で賢くてスポーツも出来る幼馴染
蔵馬の影響があってこうなのか、
それとも蔵馬がいるいないに関わらず秀一自体がこうなのだろうか。
もし彼が蔵馬じゃないなら…
ただの、南野秀一なら…
何かが変わるのだろうと思う。
入学してから一ヶ月。
「栄子、ここ間違ってる。」
「え…えぇっと…」
「x=yでしょ?だったらここはこうなって-…」
「え、えぇ…そ、そうね。そうだった、そうだった!!」
机の上の教科書と隣にいる幼なじみを交互に見ながら栄子は空笑いしながらもシャーペンをノートに走らせる。
「…入試受かったんならこれ位簡単だと思うんだけど。」
翡翠の瞳を細め、頬杖を付きこちらを怪訝そうに見る幼なじみに思わず焦る。
「ちょっと忘れてただけよ。うん、それだけ。」
「まぁ、君は忘れっぽいからね。」
どんな理由だ…と思うものの、納得してくれたのならそれで良いのかもしれない。
彼は形の良い唇でくすくすと笑う。
この学校は定期的にテストがある。
さすが進学校というべきか…
秀一の通う学校だと思うべきか…
テスト前になればこのように彼の家にお邪魔する。
学生の頃はそうだったな…と懐かしい気持ちになりながらも、酷くこの時を大事にしたいと思えるのはこの時間も限られたものなのだと分かっているからだ。
今なら分かる。
時は流れるものだと…
この時は永遠ではないのだと。
じっと彼を見つめそんな事を考えてしまっていた栄子に、翡翠の瞳が不思議そうにぱちくりすれば「どうしたの?」と声を掛けられる。
それにゆっくりと首を振る栄子。
「…ずっと、秀ちゃんとこうしていられたらなって、思ったの。」
本当にそう思った。
そのままの気持ちを彼を真っ直ぐに見て伝えれば、どこか翡翠の瞳は切なげに揺れ「そうだね」と薄く笑みを浮かべた。
彼が蔵馬でなかったら。
-…蔵馬でなかったら…
蔵馬でない南野秀一だったら…
ここまま一緒に居られるのかもしれない。
そもそも、ただの人間の南野秀一なら自分に恋心を持っているとは思えない。
彼が「蔵馬」でないならきっと私に対する思いは兄弟愛に近いものなのだと思う。
私がそうだった様に…
君が蔵馬でないのなら…
何かが変わる-…
『それが…』
『君の本当に望む世界?』
どこから鈴の様な声が聞こえた。
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