第59話 居場所
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『栄子、忘れないで…』
『忘れないで、栄子』
『君は-…』
---…
----……
目が覚めれば懐かしい天井が目に入る。
(あれ?…ここ…)
ベットの上からゆっくりと身を起こし周りを見回す栄子。
見慣れた部屋、しかししばらく帰ることのなかった懐かしの自分の部屋だ、そう人間界の-…。
なんでこんな所で寝ているのか?
そして、驚く。
壁越しに置かれた鏡に映る自分の姿。
(こ、これって…)
どこか幼さの残る自分の顔…
否、まだまだ幼い。
(十代前半?半ば??)
頭が混乱する。
確かに自分はとうに二十歳は超えていた大人だ。
そしてそんな中、見回す視線が捕らえたのは壁に掛けられた懐かしい高校の制服。
カレンダーを見れば-…
「栄子ー!!初日から遅刻するわよ!!」
母親の声が一階から響く。
(……まさか、これって…)
「秀一くんがもうすぐ迎えにきてくれるわよ!!早くしなさい!!」
(まさかの…タイムスリップ!!!??)
覚えているのは妖精の声に着いて行った所まで-…
いつしか湿った森林を抜けて…
靄がかった所を歩かされた-…
愛らしい妖精たちの言葉が振る。
『君が決めればいい』
迷ってはいけないと言われた後にまた意味の分からない言葉。
そして何度も聞いた言葉が振る。
『迷ったら知らないよ』
『迷えばいい』
『迷ったら帰れないよ』
『君が本当に望む世界へ-…』
*********
「おはよう栄子。」
目の前の知っている幼なじみより若い彼は「初日早々遅刻していいの?」とさわやかな笑顔で苦笑する。
「…お、おはよう。」
新しい制服に身を包んだ栄子。
どこか恥ずかしいのは自分の本来の年を分かってしまっているからだ。
もじもじする栄子に、秀一はくすりと微笑み「よく似合ってるよ。」と頭を撫でる。
「……。」
「ん?どうかした?」
無言で見上げる栄子に、首を傾げる秀一。
それにはっとしたように栄子は首をふるふると振る。
変な栄子だね、緊張してるの?と笑う彼はどうやらこれからの入学式の事を言っている様子だが、言われた当の本人はそんな事を気にしているわけではない。
(…秀ちゃんだぁ…)
懐かしくも若き幼なじみの姿。
そういえば高校時代はよく彼が家まで迎えに来てくれて一緒に登校していたのだと思い出す。
楽しかった時期。
ずっと続くと思っていた、否…思いたかった時期だ。
そして、「蔵馬」である事も自分に隠していた時である。
どうしてこの時代に来てしまったのか…
それとも今までの事が夢?
いや、はやりそれは前者。
夢ならばこんな鮮明に覚えているわけではない。
妖精が導いた場所がここだとしたら-…
私はもう一度やり直せるということだろうか。
この場所から…
彼の事を知るも知らないもここから。
だけど、それにしてもだ…
隣で歩く幼なじみを見上げる栄子。
「秀ちゃん、私って中学校の時に行方不明になったよね?」
そうだ。
どう今から変えたって私は特異体質で…魔界に行くのが必然的ならこの先に起こる事も同じはず。
そう思っていた栄子だったが、彼から返ってきた答えは肯定したものではなかった。
「?何言ってるの?…変な夢でも見たの?」
心底不思議そうに首を傾げる彼に目を見開く栄子。
驚いた。
これは過去ではない。
妖精が連れてきたここは、同じであって違う別世界なのだろうか。
という事は…だ。
ここでは、私は「蔵馬」とはあってはいないという事になる。
(……もしかして、この目の前の秀ちゃんも「蔵馬」じゃなかったりして。)
だったらどうだというわけではない。
だったら彼は人間であって、自分は魔界に行くことも無くてこの世界で平和に暮らして行けるということだろうか…
「秀ちゃん…」
呼べば何?ときょとんとした表情で振り返る彼になぜか少し胸が痛くなる。
「…ううん、なんでもない。」
笑みを浮かべ首を振る栄子。
それに首を傾げる彼。
あたりまえのことが幸せだった。
晴れたこの日は今でも覚えている-…
そう、永遠に続くとはきっと思ってなかった。
それでもずっと続けばと願っていたあの頃。
だけど…
ここは-…
自然と手が胸元の制服を握り締める。
「栄子?本当にどうかした?」
気付けば俯いていた栄子の顔を覗き込む秀一に、ハッと顔を上げる彼女。
「あ、えっと…」
「どこか調子悪い?」
秀一の心配そうな視線が彼女の手が置かれた胸元へ行く。
「あ、ううん、違うの…ちょっと…」
「…ちょっと?」
「ちょっと……き、緊張で胸がくるしくなっちゃって…はは。」
空笑をする栄子に、秀一は一瞬眉を寄せるも「そう…」と息をつけば柔かく微笑む。
そう、『彼』と同じ笑顔で-…、同じ優しさを持って。
それに、栄子もつられる様に笑みを浮かべた-…。
.