第59話 居場所
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ここ…
どこなんだろう-…
淀んだ空に湿った草木の生えた場所。
視線を上げれば遠くに川が見える。
そっか…
私-…
あの時、蔵馬と鴉の前に出て-…
そしてー…
「…死んじゃった…?」
あれれ?と、首を傾げる。
刺されたはずのお腹を見てみれば傷もなければ跡もない。
(確かに…刺されたはず、だよね?)
さわさわと体を触り確認するも痛みなど一切無ければ雨に濡れた形跡も汚れも一切無い。
夢だとは思わない。
うまく説明できないもののそれはどうしてか確信できる。
それにやっぱり自分は死んだのだと思えば、ではここはどこなのだろうとさらに深く首を傾げた。
目の前に見える川。
そうか、あれがかの有名な-…
「三途の川…?」
そう呟く。
≪ううん、ここは三途の川じゃないよ。≫
誰も居ないと思っていたから驚いた。
慌てて周りを見渡すも誰も居ない。
この声はどこから聞こえてくるのだろうか…
「どこに、いるんですか?…ここはどこですか?」
≪ここはもう罪が決まっている人が訪れる場所。あと、私はあなたの意識に話しかけているから実態は見えないよ?≫
「罪…が決まってる人?」
そして、意識に話しかける…の意味がよく分からないものの、確かに頭の中に声が響いている気がすると不可解ながらも納得してみる。
第一今のこの自分の状況こそがそもそもおかしいのだから。
≪そう、心当たりあるでしょう?≫
含みのある言い方に、栄子は一瞬目を見開くも、疼く胸の痛みは正直だ。
その痛みを耐えるかのように眉を寄せ静かに目を伏せる。
分かっているのだ、自分がどれだけ罪深いかなど…
自分の為にどれだけの命がなくなっただろうか…。
そして、自分の意思といえずとも禁術にさえも手を出した…。
「…私はこれからどこへ連れて行かれるんですか?」
きっとこの声の主が自分を地獄に連れて行ってくれるのだろう。
それしか考えられない…
≪私は案内人でも死神でもないの。本来なら泉に地獄行きの直行船が止まっているはずなんだけど…ないよね。きっと地獄で何かあったんだわ。≫
(やっぱり地獄なんだ…。)
「来ないと私、困ります。」
≪…どうして?船がないという事は乗らなくていいんじゃないかしら?≫
「…帰れるんですか?」
≪ううん、帰れない。≫
「……。」
一体なんだというのだ。
この声の主は…自分をからかっているのだろうか…
≪でも、船が来ないとあなたはこのままここを迷ってしまう。≫
「いつか来るなら待ってます。」
≪待つの?…地獄に行くんだ。≫
「…一体なんなんですか?帰れないなら、迷うならここで待つしかないでしょう?」
姿さえ見えず尚且つ意味の分からない事まで言うその声にいい加減腹が立ってきた栄子。
そんな時だった-…
『迷うんだって…』
『迷うの?』
『迷うから待つんだって』
『待ったって迷うのにね』
『ねぇ!!』
ケラケラと小さな笑い声が耳に入る。
これは…
「妖精…?」
どこにいるのだろうか?
しかも、こんな場所に妖精がいるなんて驚きだ。
≪ふうん…妖精に好かれてるんだね。≫
「え、…い、いやいや。そんな事は…」
『どうせ迷うならもっと迷ってみる?』
『迷ったら帰れないけどね。』
『人魚って優柔不断』
『優柔不断』
「?…私が優柔不断は認めますけど(人魚ってなんだ?)」
意味が分からない。
頭が混乱する…
死ぬとはなんだろう。
「死」とは、こんなに難しいものなのだろうか?
死んでから迷うとか本当に意味が分からない。
怪訝そうに顔を顰める栄子。
≪妖精は、人間が好きなの。悪戯にも素直に答えてくれるし、よく迷ってくれるから。あ、そうだ。行き先が分からないなら妖精に付いていけばいいんじゃない?≫
「…え?」
≪…気に入られれば彼らは助けてだってくれるよ?≫
「なら…もしかしたら、ここからも…」
帰してくれるのではないだろうか?
≪迷わなかったら、だけどね。≫
「……。」
迷う迷うとは一体何に迷うのか…
いまいち、妖精の言葉もこの声の主の意図も掴めない。
≪きっと彼に会えるわ。≫
不意に振る女性の言葉。
何をといわずも、どこか確信めいたその言葉に思わず心臓が高鳴る。
会える…?
迷わなければ…
迷わなければ…
彼に
彼らに会えると?
「死んでいるのに、ですか?」
≪そう。≫
それは生き返ると、いうことなのだろうか。
でも、なぜ??
≪…あなた次第だよ。栄子さん。≫
(私次第…)
あの時、自然に動いた体。
自覚している。
-…嘘はもうつけないって、分かっている。
私はあの時、ただ彼を守りたかった-…
でも-…
≪-…あなたは、もう会えなくてもいいの?≫
女性の声が頭の中で遠くなり木霊する。
≪-…死んだら二度と会うことは出来ないんだよ?≫
『それが「死ぬ」という事だよ、栄子』
『死ぬとはそういう事。』
『さぁ、栄子―…』
妖精達がどこからか吹く風と共に騒ぎ出す。
『僕たちが君の行きたいところに連れて行ってあげる。』
行きたいところ…
『でもね、でもね…絶対-…』
-…迷ったらだめだよ?
忠告の様に聞こえるも、どこか非情な妖精たちの楽しげな笑い声が混じる。
姿さえ確認できない妖精達は一体どんな表情をして自分を誘っているのだろうか…。
まるで迷うことを楽しみにしているようなそんな感じにとれてしまうのは気のせいだろうか…。
いつか彼に言われ、躯さんにも言われた。
"妖精に付いていけばおまえは迷う"…と。
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