第58話 同じもの
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最下層で鳴り響く断末魔-…
精神すら闇と化し来るものを食らい蝕み続ける地獄最悪の死霊達…
その最後の断末魔が最下層に響く-…
それに、死して尚も無くなった存在達を弔うように躯は静かに瞳を伏せる。
原型も留めていなければ精神さえも闇に支配されていた意識達…否、死霊。
一体どれが自分の探していたものだったのか等、混ざりすぎて分からるはずもなかった。
「躯様…。」
背後から静かに声を掛けられる。
ゆっくりと瞳を開き振り返れば、不安気に揺れる見慣れた瞳と目があう。
「おまえも偵察ご苦労だった、驥尾よ。」
切なげに微笑む躯。
それに何か言いかけようとする驥尾は、一瞬口を開くものの言葉が出ず口を紡ぐ。
驥尾を霊界の地獄の偵察に送り込んだ躯。
鬼人族である驥尾は地獄では目立つことはそうない。
人型であっても鬼の血が流れている為そう警戒されることはないのだ。
鬼の主な仕事である門番なら尚更だった。
驥尾自らも進んで受け入れた地獄の偵察。
それにはしっかりとした理由があった-…
「これで…少しは開放されたのでしょうか?」
驥尾の瞳には城に残してきた躯の客であり友人になれた彼女の姿が目に浮かぶ。
「さぁな…。だが-…これで一つ片付いたのは確かだ。」
「なら、栄子様の罪はなくなるのですよね?」
「これの力がなければ術自体完成していなかった。それは事実だ…一度目の禁術が失敗に終わっていたんだからな。」
「だったら-…」
「どんな形といえど反魂の術はかけられた、それは変わらない。…そして、鴉は人間を殺めすぎた。」
「……。」
「皮肉だな…。」
地面の砂を足で撒けば欠けた貝殻のネックレスが出てくる。
それを手に取れば切なげに瞳を揺らす躯…
今の魔界では決して存在しない代物。
酸の海では決して生き物は存在せず、全てが砂と化すのだ…
地獄の最下層に『物』はありえない。
それが形となり残ると言うことはそれだけ強い想いがこの場所に存在していたという証拠だ。
「人魚に惚れた男が招いた惨劇…か。」
自分の娘を生贄にしてまで愛した人魚を生き返した男。
その男の末路は死でありその魂は最下層に捕らわれた-…。
自分よりも娘をとった事実。
娘への想いが人魚を怒らせ男を死へと導いた。
次第にその想いは呪いとなり、娘すらにも嫉妬したのだ…
最下層に捕らわれた男は精神だけとなり他の闇に支配されさらに歪んで行く。
「そもそも母親が子を想うのに嫉妬するなんておかしいです。」
驥尾は躯の手に持つ貝殻のネックレスに視線を落としながら呟く。
「……嫉妬から狂ったんだろうな。一途な愛情が人魚を怒らせ男を狂わせた。分からんこともないが…」
男は人魚を憎んだ-…
自分より娘を選んだ人魚を…
愛しているからこそ憎しみも深くなったのだ。
そして、大事なものが心から大事にしているものを男は分かっていた-…
そこに付け込んだのだ-…
「…いくぞ、驥尾。」
物思いに耽るのはまだ早い。
そう思えば、躯は貝殻のそれを胸元に仕舞い岐路に向き直るのだった。
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