第58話 同じもの
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『許さない…』
(あぁ、まただ…)
『許してやるものか…』
悲痛な男の声
それは以前よりはっきりとした声色。
(秀忠?…鴉??)
知っている声と照らし合わせるも決して被ることは無い…
だからといって、蔵馬や秀一…飛影のものとも明らかに違っていた。
だが…どこか懐かしい声。
『愛してただけなんだ…』
瞳の裏に映るのは真っ赤な赤…
脳裏の奥に眠る記憶を呼び起こす-…
動かない自分を包み込む温もり。
まるで自分が小さな幼子の様に、その温もりは体全体を包み込む。
懐かしくて
待ち焦がれた
温もり
その温もりに手を伸ばせば手に落ちるのは温かな"彼女"の涙…
コロコロと地面に転がる涙の音。
既に機能を失くしているこの目では確かめる事は出来なくとも、明らかに自分の涙とは違うもの。
自分の未完成のものとは違う-…
そう、それは決して溶ける事はない物。
溶ける時は彼女が死んでしまう時だけ…
だからそれは彼女が生きている証。
帰ってきてくれたのだと…
そう思えば力が抜ける…
深く深く落ちて行く…
『いかないで…お願い…』
次に耳に入ったのは先程とは違う悲痛な女の弱弱しい声-…
既に先程の男の声は無い-…
真っ赤な月が見下ろす下界には
一人の哀しみに暮れる人魚と
冷たくなっていく血だらけの少女
そして-…
たった今まで生きていた男の亡骸がそこにあった-…
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