第57話 解かれる呪縛
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- 蔵馬・秀一SAID -
何が起こったのか
それはあまりにも一瞬で
すぐには理解など出来なくて…
気付けば目の前に彼女がいた-…
「よか…た-…」
なにがよかったのか…
彼女は自分の視線の先にある白装束の上を優しく撫でる。
そしてどこか安心したように自分を見て微笑んだから-…
夢なのだと一瞬思ってしまった-…
だけど、そう思う自分があまりにも滑稽で…
真実は今この瞬間が物語っているというのに…
青冷めて行く愛しい女の顔色…
これのどこが夢だというのか…
「栄子…」
出た声は自分のものとは思えない位頼りなくて震えて-…
彼女の背後で何度も彼女の名を呼ぶ男の声と自分の声が区別付かないほど頭の奥が麻痺して…
これは…
一体なんだ?
「…秀、ちゃん…」
愛しい声…
そっと震える手で彼女の頬に手を伸ばす。
愛しい肌…
目の前にあるこれ自体が無二の存在。
彼女の背後から腹部を突き出る手がズッと嫌な音を立てて引き抜かれる…。
彼女の背後では、彼女を凝視したまま真っ赤な手の鴉がよろめいてその場にしゃがみ込む…
血の香りが充満する。
彼女の背から吹き出る血液。
傷口を手探りで探せば手持ちの薬草を押し付けるように抱きしめる。
そして、歯に忍ばせておいた薬を噛み砕き彼女の口にそれを移そうとするも、がくりと落ちる彼女の頭と一気に寄りかかる体重に、蔵馬は背筋が凍った。
嘘だ-…
これは…
悪い夢だ-…
落ちた頭を上げれば顎を掴み強引に口に砕いた薬を移し入れる。
反応しない唇に舌。
何度流しいれようとも機能しないそれに狐はただ何度も口付ける。
死なせはしない-…
死なせるものか…
君は-…
狐の口元が彼女の口元から溢れる血で赤く染まっていく-…
「やめてくれ…栄子…」
彼女を抱きしめたままその場にしゃがみ込む狐。
***************
- 鴉・秀忠SAID -
「……選んだのは…狐、なのか。栄子…」
今にも消え入りそうな鴉の声が辺りに響く。
「俺は…おまえの為に生き返ったというのに…おまえは、俺と生きたくはなかったのか…?」
問いかけたい相手はもう返事はしてくれない。
しゃがみ込んだ鴉の視線は虚ろに目の前で蔵馬に抱きしめられる栄子に向けられる。
「おまえは……」
『秀忠…狐飼ってもいいでしょ?』
桃色の着物を纏った無垢な笑顔が脳裏を掛ける。
まだ幼い女の子。
分かっていたのだ-…
彼女が≪あの頃≫とは、もう違うのだと-…
自分に向けてくれていた想いはすでにないのだと-…
例え、同情でも罪悪感からでも側にいてくれるならばそれでよかったのだ…
あぁ…
違うのだ、栄子は…
「これは、…俺の為なのか?」
これ以上の罪を重ねない為に…
俺の為に、そして自分の罪の重さに耐え切れず…
そして-…
目の前の男の髪が銀から赤に変わる-…
虚ろな金の瞳は翡翠となり、ただ彼女を静かに見据える…
この-…
男の為にか??
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