第56話 未完成の道標
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蔵馬が焦ったように、俺の前から姿を消した。
胸から生えてきた木々は蔵馬がいなくなると成長を止める。
幻覚を見せられる前にと即座にその木々を燃やせば体内まで熱を感じた。
痛みがないのは助かる。
体内まで根が張っていた為、本来ならば死んでしまう程の痛みだろう。
そして-…
確かに勝手にしろといった。
好きに生きろと…
忘れていたわけではない。
確かにそう言った…。
だが…
「誰が…勝手に死んでいいと言った。」
目の前では、赤く染まる血の池に白い腕を投げ出し倒れる女。
その場にしゃがみ彼女の頬に手を伸ばす。
雨で冷たくなってしまった頬。
そして、命が事切れた証。
胸の奥が酷く気持ち悪い。
これは自分の所有していたものが他人に奪われたことへの苛立ちか…
「…馬鹿が。」
聞こえているわけもないがそう呟く。
一度しか生き返す事ができないのだ。
それ以上は、例え生きかえったとしても別の生き物になる。
形代だけを所有した別の存在。
今になって初めて後悔する。
どうしてあの時、気まぐれといえどこれの命を奪ってしまったのか…
今ではそんなきまぐれ等、決して起こさない。
「生きれば…よいものを…」
この感情は一体なんなのか。
酷い焦燥感…
そして…
視線を上げた先には狐が自分の女を囲うように立ち背を向けている。
どこまでも…邪魔をする。
愛しい女を奪い、尚且つ桃華にまで手を掛けた…
この生になってから…様々な感情が蠢く。
『鴉…私は、あなたの為ならどうなったてかまわないの…。』
桃華…
『あの女は誰?…私はもう…必要ない?』
悲しげに瞳を揺らし自分をいつも見つめていた女。
一途な女だった。
女の一途な想いにつけ込み始めは利用するつもりだった。
なのに…
気付けばその真っ直ぐな瞳を直視する事ができなくなっていく自分が居た。
側にいれば居心地が良いくせに見つめられるとどれだけ自分が汚れているのかが分からされる。
以前はそんな事気にすらならなかったのに…
『鴉…大好きよ。』
俺は…
何を求めていた?
『鴉…』
-…邪魔な感情だ。
この感情は秀忠の時だけであっていいはずだ。
なのに-…
-…今はあの時以上に胸が痛い。