第55話 大事の定義
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-…一瞬だった。
次こそは衝撃が来るのだろうと瞳を強く閉じた瞬間、何かが裂ける音が耳に入れば、次に地面に倒れる音がした。
生暖かい雨だから…だろうか。
頬に飛んできたそれが血だとは思いたくなかった。
分かっている。
今日は…
城の人たちはほとんどいない。
静か過ぎたから、分かっていた。
林の中だといっても庭の近くでこんな風に騒いでいたらきっと誰かが必ずくるはずなのに。
『部屋で待ってて。』
彼の言うように部屋で待ってればよかったんだ。
ならこんな場面見なくて済んだのに。
雨がざぁざぁと肌をはねる。
温かな雨…
地面にしみこんで行く真っ赤な液体…
「……どうして?」
目の前の人物を虚ろに見上げる。
振り返る銀の髪。
眉をきつく寄せ金の瞳が揺れる。
「蔵馬…」
私といればあなたはどこまでも罪を犯す-…
彼の背後に見える白い投げ出された腕。
「彼女…どうして?」
どうして…などと罪深い自分の口が言う。
「なんで殺す…必要が、あるの?」
責めているわけじゃない。
彼を責めているわけじゃない。
心が痛い。
悲鳴を上げる。
「……。」
「ねぇ、蔵馬…」
…嫌だ。
もう嫌だ。
自分のせいで人が死んで行く。
そして、この人のこんな姿を見たくもないのに見なくてはいけないのはどうして?
目の前の金の瞳は何も言わず苦しげに揺れている。
「俺が…」
頬に触れる人より冷たい彼の指。
「俺がお前を手放せないからだ。」
頬の傷を優しく指でなぞる。
傷つきながらも愛しそうに見つめる狐の瞳に映る自分の顔。
雨が強くなる。
胸が熱い…
「…栄子?」
何も言わない私に眉を寄せ心配気に顔を覗き込む蔵馬。
視界に入るのは銀髪の美しい妖怪…
金色の瞳…
そして、大事な大事な幼なじみ…
優しい瞳は変わらない。
秀一でも蔵馬でも同じ眼差しでこちらを見据える。
「桃華…」
小さく呟く声にはっとした。
そして同時に感じるのは…
知っている妖気。
黒髪が銀髪の背後に小さく揺れているのが見える。
「秀忠…」
彼の瞳はただ女性を見下ろす。
桃華と名乗った、今は動かない女性を。