第55話 大事の定義
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昼間は良い天気だった-…
だからまさか夕方から雨が降るなんて思いもしなかった。
そっと自室の窓に手を当てる
真っ暗な雨振りの外を映し出す窓に反射する自身の顔。
(…まだ目が腫れてる…。)
栄子はどこかすっきりしない表情を浮かべながら昨夜の事を思い出す。
-…これで何度目だろうか。
否、頭から離れない出来事な為、思い出すという表現も間違っていた。
ふと別の事に意識が逸れる事はあっても確実に自然と脳裏に浮かぶのは真新しい記憶。
「…秀ちゃんのばか…。」
唇を噛締め、眉を寄せる栄子。
今日だけで何度幼なじみに対して暴言を呟いただろうか。
朝から彼に対してまともに話すことも顔を見る事もしなかった。
怒りだけではないのだ。
そんな簡単な感情ならば彼にぶつけている。
ならば悲しみか…
裏切られたと?
それもどこか違っていた。
裏切られた等そんな感情などあるわけがない。
彼は以前から自分を想ってくれていた。
それを分かっていながら甘え寄りかかっていたのは自分自身だ。
どちらかといえば自分を責める。
だが、いつも優しい彼が強行な姿勢に出た事は栄子の中では消えない事実だったのだ。
だが…
それでも-…
そっと窓に映る自身の顔を指でなぞる。
「不細工な顔…、私。」
『今夜栄子の部屋に行くよ。…待ってて。』
今朝、廊下で耳元で囁かれた甘い声。
本当なら待つ必要なんてないのに-…。
視界に入るのは、真っ暗な外にも関わらずきらきらと光りを放ちながら降りしきる雨。
光るのはこんな日でも庭がライトアップされているからだ。
ふと視線を庭へやる。
(…あれ?)
薄暗い中、庭の隅に見える人影。
庭というよりはそれより外に、林に近くに立つその姿。
小柄な様子から女性なのだと分かるものの、彼女が動く気配はない。
ただ…
(こっち、見てる?)
林の木の陰で雨をしのぎながら自分を見上げているかのようなその様子。
そして、その姿を凝視する栄子の瞳は徐々に見開いていった。