第54.5 僕たちの憂鬱
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「おい、飛影…俺と手合わせしろ。」
木の上で寝ている飛影に不機嫌な躯の声が届く。
「…断る。」
「なぜだ?」
さらに不機嫌が増す躯。
昨夜は調子よくべらべらと色んな事を話した彼女とは似ても似つかないその姿。
なぜそんなにもイラついているのだろうか。
「今夜は大きな仕事が入っているだろう?」
今から体力を使うなんて馬鹿らしいぜ…と飛影は腕を頭の後ろで組めば再び静かに目を瞑る、が…
「…いいのか?俺が今からこの敷地内の部下全員を手にかけても…。」
地を這うような低い彼女の声。
「……。」
こいつは一体何を言っているのか…。
そして、なぜこんなにも機嫌が悪いのか。
正直関わりたくないと飛影は思う。
「黄泉や幽助にでも相手してもらえ。蔵馬だっているだろ?」
「…狐、だと?」
一気に彼女のオーラがどす黒くなる。
「…?。あぁ、蔵馬とは今夜の事でも話し合わなきゃいかんのだろ?どうせ会うんならついでに…」
「あんな性欲狐と手合わせなど生ぬるい。今回の件が済んだらあいつは俺が消してやる。」
「……。」
「昨夜、あいつは…くそっ。」
感情をあまり露にしない彼女にしては珍しい。
そして、こんなにも余裕がない表情の躯はそう見れない。
躯が何が言いたいのかは分かる。
昨夜、薄々は感じていた事だ。
狐の妖気も不安定なら栄子の気配もどこか普段と違っていた。
だが…
「あいつは…大丈夫だ。」
その言葉に躯の眉が険しく寄れば、何が大丈夫なんだ?と矛先は自分へと向く。
しまった…と思いながらも出てしまった言葉は撤回できない。
「蔵馬は…栄子を傷つけるような事はしない。例え、自我を失っても…な。」
「……なぜそう思う。」
「なんとなくだ。」
まぁ、『性欲狐』とは、笑えるが。
飛影は内心思う。
「あれは…否定しなかったぜ?」
「……。」
それが本当ならば…
話は早い。
栄子が受け入れたのか…
「違ったな…あれは『性欲色魔狐』だ。会ったらそう言ってやれ。」
「……。」
「さぁ、飛影やるぞ。」
下からこちらを見上げ指でこいこいと呼ぶ躯。
それに呆れた様にため息をつき、自分も甘いなと思いつつも、少しだけだぜ…と頭を掻く。
きっと…
狐は栄子に無理強いはしない…
例え、欲に溺れ自我を失ってもだ。
それにしても-…
「性欲色魔狐…か。」
飛影はいい気味だぜ…と悪戯に微笑んだ。
自分の戦友と初めて守りたいと思った女。
女に興味などなかった自分が、笑える。
出会った時は思いもしなかった…
蔵馬とはこんな関係になるとは思いもしなくて、栄子とは再び会えるなどと思ってもみなかったのだ。
躯の待つ地上へ降り立てば、首に掛かる氷泪石の首飾りが揺れる。
綺麗な円を描いていない、歪んだ石。
石にしたのは自分自身…
なくなる彼女のそれをどうしても形にしたかったのはどうしてだろうか…
「躯よ、限界までつき合わすなよ。」
今日は大事な日なんだろ?
飛影がそう呟けば躯は微かに笑みを浮かべた。
「おまえにはハンデなどいらんだろう?少々痛めつける位が丁度いいんじゃないか?」
「…嫌な野郎だ。」
「他の部下からしたら、部下思いの賢明な城主だと思うが?」
「勝手にしろ。」
呆れた様に飛影は息を付くのだった。