第54話 金と翡翠の狭間
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
狐は朝食後、自室に戻れば再びベットに仰向けに寝転ぶ。
未だ残っている彼女の香り。
ゆっくりと瞳を閉じれば昨夜の出来事が脳裏に浮かぶ-…
熱に浮かされれば、他の事など冷静に考えられる余裕なんてなかった-…
目の前の光景に思考が溶けて行く
見たこともない艶を含んだ瞳に濡れた唇…
頬は桜色になれば肌は月明かりを浴びて真っ白に輝く-…
狐の欲を支配するその姿。
『やめて…も…や、だ…』
どんなに許しを請おうとも…
『お願い、秀ちゃん…』
どんなに懇願しようとも-…
いつしか抵抗は甘い声に変わっていった-…
どれだけ自分を見失いそうになったか…
何度求めても足りない焦燥は、どれだけ自分がこれに焦がれたかを物語っていた。
不可欠の一人を手に入れれば自分を見失うのだと分かっていたのに。
***************
「機嫌が悪いな、躯よ。」
それは珍しい組み合わせだった。
「今ならおまえと決着をつけてもかまわんぞ?黄泉。」
跡形もなく消してやるぜ?と妖艶に笑みを浮かべる躯だが、目が見えぬ黄泉でも手に取る程に分かるほど躯の妖気は殺気立っていた。
黄泉の部屋に足を運んだ躯。
珍しい事もあるものだと黄泉は苦笑しながらも彼女を中に入れた。
そして今に至る。
向かい合うソファに腰掛け紅茶を飲む躯。
そして合間にまずい…と何度も呟く。
そんなにまずければ飲まなければいい。と思う黄泉だが今の躯には何を言っても意味がないのだろうと思えばただただ静かに彼女の様子を見る。
「おまえはよくあんな色狐と友でいるな、いや色狐じゃない下衆狐だ。」
どうやら俺に聞きたい事は蔵馬の事らしい。
人より聴覚も優れている為、躯が何が言いたいのはすぐに理解できた。
「…躯よ。蔵馬にはちゃんと考えがあると私は思うが。」
「考えだと??欲に溺れた自制心の欠片もないやつがか?」
「……ふふ、それは否定ない。今のあいつはおもしろい。」
「貴様-…」
「躯、おまえのは女故の苛立ちだ。」
「!!!!??」
「女が受身で男より弱いのが気に入らんか?」
「気に入らんな、力づくで虐げる事は侮辱の何でもない。」
女であり無力だった過去の躯。
今でも捨てきれない女の部分は蔵馬への憎しみを肥大させる。
「だが…栄子は例の男の元へはいけんだろう。」
「…なんだと?」
「冷静になれ。躯よ。栄子はきっと行けない。」
「……。」
「あの人間はきっと罪悪感に苛む、そして例え男の元へいったのだとしても…あの女は言葉に出さずとも正直だ。」
「……。」
「禁術まで使用して栄子に会いたいが故に生きかえった男だぞ?自分の愛しい女が別の男の手に掛かっていればそれを見逃すと思うか?」
「…例え栄子が秀忠の元へ行った所で奴は蔵馬に会いに来ると?そんなもの予想にしか過ぎんな。」
「だが、あの人間の女に言えばてき面だ。あれは蔵馬の言葉を信じる。」
「……」
「きっと蔵馬はそうあれに言ったのだろう。今、あの女がこの城にいる時点でそうは思わんか?」
「……いいわけだ。自分の好きにしといて都合よくしか聞こえない。」
「もちろん愛しいと思うから抱いた、それは変わんだろう。俺も男だからわかる。」
「…蔵馬もおまえも今回の事が終われば八つ裂きにしてくれる。」
忌々しく顔を歪める躯に、俺は関係ないのだが…と苦笑する黄泉。
栄子がなぜこうも苦しんでいるのか…
それがなぜ分からないのか。
例え彼女をここへ閉じ込めたとしてもそれは狐の満足でしかないのだ。
あれの苦しみは終わらない…
さらに苦しめ笑顔を失くすのだと、なぜ狐もこの男もそこにたどり着かないのか…
躯は唇を噛締める-…
「俺は狐の自己満足に付き合ってられるほど気楽でも馬鹿でもないぞ。」
「おまえはそれでいい。」
それにちっと舌打ちをする躯にただ黄泉は薄く笑みを浮かべた。