第4.5話(妖狐編I)
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憎しみとは本当に存在する気持ちなのだろうか。
確かに私は自分と、彼を憎く思った。
無知で愚かな自分と、残忍非道だと言われる妖怪を。
なぜなら私の大事な人を死に至らしたのが妖怪だから。
でも私が彼を拾わななければ無くすことのない命だった。
言いようのない後悔と憎しみを心に抱き、ずっとこのままだと思っていた。
なのに…
もう憎く思えないのはなぜ?
庭で数人の仲間と日向ぼっこをして遊んでいる栄子。
「おぉいっ、栄子。蔵馬知らねぇか?」
蔵馬の親友でもあり、右腕でもある黒鵺は空からそう叫びながら栄子の前に降りてきた。
「蔵馬?…さっきは書庫にいたよ?」
「書庫?あいつ…俺を呼び出しといてそれかよ!」
ムスッとする黒鵺に栄子は笑う。
「なら書庫から出てくるまで一緒に日向ぼっこしようよ。」
「日向ぼっこ…だぁ??なんだ、まさか栄子はよしとして、てめぇら仕事せずにサボってんのかぁ~!?」
怒りの矛先が、栄子と一緒にいた仲間にいく。
「ちっちがいます!これはお嬢と遊べって頭の命令で…」
「はぁ?命令?」
「はいっ!遊ばなければ髑髏谷に突き落とすと言われまして…」
「……」
黒鵺ははぁっと深くため息をつく。
「なによそれ…」
黙って聞いていた栄子も思わず言葉が漏れる。
((過保護すぎる…))
「ひどいよー蔵馬、私そんなに子供じゃないし!」
頬を膨らませながらソファーに腰掛けている蔵馬の髪の毛を引っ張る。
「俺もだ!てめぇが呼び出しといて何のんびり読書なんてしてやがる!なんだ、…まさかここは盗賊団じゃなく幼稚園にでもなったのか?仕事が遊びだとかほざく野郎もいればそれを指示した奴もいるっていうじゃねーか…こんなガキの面倒見させやがって!」
黒鵺もよっぽど鬱憤がたまっていたのか、栄子と一緒になり耳を引っ張る。
「黒鵺ひどい!私ガキじゃない!はっきりわからないけどもうすぐ15歳位だよ!?」
「15なんて超ガキじゃねぇか、ぺちゃんこの胸しやがってどこが大人だ、ほれ、言ってみろ?」
ぎゃぁぎゃぁと読書をしている蔵馬の周りで騒ぎ出す二人。
「……おまえら」
蔵馬の額に青筋が立つ。
「私これでもちゃんと胸あるもん!!着痩せするタイプなだけだもん!」
「なに熱くなってんだ、これだからガキは嫌だ。」
「ガキガキってガキじゃないもん!」
「俺らの中ではおまえ位の発育ガキなんだよ!この胸だってなぁ~」
「!!!」
黒鵺は栄子の胸に手を当て軽く揉む。
「おっ?思ってたよりあるなぁ~」
次の瞬間栄子は真っ赤になり叫ぶ。
「うっせぇ、ちょっと触っただけだろ?」
「なっなっなななな…なにするのよ~!」
両腕でしっかり胸をガードして栄子は後ずさる。
「おおげさな野郎だなぁ、なぁ蔵馬、こんなガキ女に思えな…って、えっえっ?…」
どす黒いオーラが黒鴉を包む。
「死にたいか、黒鵺。」
「えっ、どうした、蔵馬…って、えぇ!??」
いきなり蔵馬の背後から黒鵺目掛け襲ってくる魔界のオジギソウ。
黒鵺は意味がわからないものの、追いかけてくるオジギソウに命の危険を感じ一目散に逃げていく。
何が起こったのかいまいち分かっていない栄子。
とりあえず大量の草の生き物が蔵馬の背後から黒鵺目掛けて出てきたのだけはわかる。
放心する栄子に蔵馬は手でこいこいと呼ぶ。
栄子は素直に彼の隣に腰を降ろし、彼を見上げた。
「今の、何?」
大きな手が頭を撫でる。
「オジギソウだ。」
「私の知ってるオジギソウじゃなかったよ?」
撫でられる気持ち良さに思わず目を細めてしまう。
「魔界のオジギソウはでかくて凶暴なんだ。」
撫でる手が止まる。
「…黒鵺が悪かったな。」
低い声が上から降る。
しかし、彼の謝罪の言葉に栄子は頭を振った。
「蔵馬が謝ることないよ、黒鵺が悪いの。私を子供扱いして!」
「子供扱いは嫌か?」
乗せられていた手が頭から離れる。
「あっ…」
名残惜しくその手を目で追う。
「これは必要か。」
クスクスと笑う彼は再び栄子の頭を撫でる。
赤くなる栄子。
「でも、子供じゃないもん。」
唇を尖らせ拗ねた栄子に、蔵馬は目を細め少し笑うと、彼女の髪を撫でる手を頬に移動させる。
頬を優しく撫であげ、長い指が唇をかすめる。
「蔵、馬?」
見上げたそこには金色の瞳。
銀色の長い髪が顔にかかる。
息がかかりそうな距離。
こつんっ
互いの額が当たる。
「今はまだこれでいい。」
栄子は目蓋をぱちぱちとさせ頭を傾げる。
「まだわからずともよい。あと、少しだけ待つ。」
「??」
「そろそろ限界だから。」
かすれた小さな声。
ぎゅっと狐は栄子を抱きしめた。