第54話 金と翡翠の狭間
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蛍子の部屋では椅子に腰掛け未だ泣き鼻を啜りながら必死に話す栄子の姿がそこにあった。
その前では友人の蛍子が彼女の話に優しく相槌を打っていた。
話が一段落着けば、ぐずりと鼻を啜りながら俯く栄子に蛍子が優しく話す。
「…栄子が背負っているものよくわかったよ。大変だったんだね…よく頑張ったね。」
そう言えばそっと栄子の頭を撫でる。
「一緒に探そう?」
「……え?」
「結論は秀忠君が生贄を必要としなくなればいいんでしょう?そうしたら、あんた自分が無理してまで彼の側にいる必要はないわ。」
「私は無理なんて…」
「ならどうしてさっさと彼の所にいかなかったの?」
ぴしゃりと言われれば思わず栄子は黙って目を逸らす。
「…一緒にいたい人は別にいたからでしょう?」
「……。」
「秀一さんと-…」
「ちがう!!」
蛍子が言いかけた言葉を遮るように栄子の声が響く。
「……栄子?」
「……あ、ちがうの。…あ、あのね、生贄を絶つ方法は本当にないの、秀忠がそう言ったの。直接彼に聞いたんだもん、間違いないよ。」
「…でも、それはあんたに側に居て欲しいからじゃないの?そもそも、あんたと一緒にいたいからその禁術…だっけ?それで生き返ったんでしょう?」
だから、絶対何か方法があるわよ。
蛍子は栄子の手を強く握ればしっかりと彼女の瞳を見る。
「……。」
「だから、あきらめないで。自暴自棄になっちゃだめだよ?」
「……っ。」
感極まり再び流れる涙。
「……一緒に探そう?」
「うん…。」
ぼろぼろと涙が流れればころころと床に転がって行く涙の石。
それに目をやる蛍子は、あとね…と視線を泳がせ罰が悪そうに微笑む。
「…実は幽助から少し聞いてたんだ。」
え?と顔を上げる栄子に、えっと…と頬を掻く蛍子。
「少しだけね。でも直接あんたから聞きたかったの。……といっても知ってて何も言えなかったのは私が馬鹿だっただけなんだけど。」
本当にごめんね。
そう言って蛍子は手を目の前で合わせる。
それに栄子はゆるゆると首を振れば少し微笑む。
「それだけ心配してくれたんだね。ありがとう。」
蛍子の様子から周りは少なからず自分の状況を知っていたのだと確信する栄子。
(本当に私って馬鹿だわ…)
そして、こんなにも友人は気にかけて心配してくれていたのだから…
言わずか言うべきか悩んで自分に聞いてきてくれたのだ。
(本当に…馬鹿だ…)
「栄子…あと二つほど聞きたいんだけど…いい?」
「…うん。」
「…あんたの涙、どうなってるの?」
「あ、これ…これは、こっちの世界にくるとこうなっちゃうの。一瞬固まって落ちるんだけど、時間が経つと元に戻るの…氷泪石っていうのに似てるらしいんだけど……。とっても未完成で中途半端でしょ?なんでかわかんないんだけどね。」
「…まさか、栄子って妖怪??」
「それはないよ。それは皆言ってるし。…ちょっと変な体質だけどね。」
「まぁ、いきなり人間界から消えちゃう位だものね。でも、運よく躯さんに拾ってもらったのね。よかったわね。」
「…そうだね。」
そう魔界に来て見つけてくれた人が彼女でよかった。
そういえば、自分は彼女の城の花壇に自分は倒れていたと教えられたが…
(…あれ?結界はその時なかったのかな?)
だが、あの面倒臭がり屋の躯ならありえる。
(うん、きっとなかったんだわ。)
今更ながらきっとそうだと納得していれば、蛍子の探るような視線に気付く。
「……あと、ひとついい?」
「うん、なぁに?」
大分すっきりした様子の栄子。
蛍子に話を聞いてもらえれば、道筋も出てきた。
可能性は低いかもしれない、だが蛍子が他に方法がある!!と強く言ってくれたおかげで心の荷が確かに少し下りた気がしたのだ。
栄子は少し微笑み首を傾げれば、心なしか少し険しい顔の蛍子の表情が気になる。
言いたそうにして言いかけない。
口元がもごもごと動くも続きを言わない様子から何やら戸惑っているようだ。
「なに?言ってよ。」
「…なら、言うけど。」
「秀一さんと、何かあったの?」
「!!!!!!!!!!???????」
一気にカァーーー!!!と赤くなっていく栄子に蛍子はあちゃぁ…と口元が引きつれば、なんてわかりやすいの?と額を押さえる。
「…離れるっていったのね?」
先程の話から目の前で真っ赤になって俯く友人は昔の恋人?である秀忠の元へ行くのだと幼馴染に話したのだろう。
「……。」
「ふむ。…で、秀一さん怒って栄子に告白してきたと?」
ならばあの極端な栄子の様子は納得できる。
「……ううん、告白は前にされた。」
「え!!!?そうなの!!!?…うわ、それなのにあんた平然と秀一さんと寝てたの?」
秀一さんかわいそう…と呟けば、そんな事してたら襲われても言い訳できないわよ?と冗談交じりで笑えば、一気に栄子の表情が強張る。
「………え?」
「………。」
「……付き合ってはいない、よね?」
栄子の様子から見ても分かるように付きあっていないという事は明確だった。
まさか…襲われたのだろうか?
あの秀一さんに?
蛍子は必死に思考を巡らす。
しかしそんな蛍子に栄子が勢いよく顔を上げれば…
「キ、キス…されたの!!」
と大きな声で叫ぶ。
「は?キス?……どこに??」
「ほ、ほっぺに!!!」
「……………。」
「あ、あと額にもされた。」
言いながらさらに赤くなり俯く栄子に、はぁ~…と大きなため息を付く蛍子。
「あんた、とっても紛らわしいわ。」
というか小学生なの、あんたは…と苦笑されれば、栄子は、ははっと笑みを浮かべる。
「だって…ずっと幼馴染だったんだよ?キスでも…驚くよ。」
「いや、せめて口くらいにしてくれなきゃあんたには伝わらないと思うけど。額と頬なんて子供を寝かしつけるレベルじゃない。」
それにしてもびっくりさせないでよ…と蛍子は呆れた笑みを浮かべる。
「……。」
「…でも、油断してちゃだめよ?男は狼なんだからね?」
ぴんと人差し指を立てる蛍子に、思わずくすりと笑う栄子。
それに互いにくすくすと笑い会う。
「蛍子、ご飯いこっか…。」
「あら、もう大丈夫なの?」
「うん、お腹空いちゃった。」
笑みを浮かべる栄子に蛍子はやれやれと息をつき、なら行きましょうか…と椅子から立ち上がればそんな蛍子を見上げる栄子の瞳が微かに揺れる。
「…うん、行こう。」
栄子はにっこりと笑みを浮かべた。