第54話 金と翡翠の狭間
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とても悲しかった様な気がする
『謝らないよ…』
そう言ってただ呆然と涙を流す私の頬を撫でた優しい手…
『後悔なんてしてないから、俺。』
聞こえた声は震えていた-…
「あら栄子、おはよう。」
部屋から出た先で名を呼ばれれば振り返った先で笑みを浮かべる蛍子の姿。
「お、おはよう…。」
「あれ?…どうしちゃったの?栄子。すっごく目が腫れているわよ?」
「!!?…あ、昨日本読んでで悲しい話で泣いちゃって-…」
困ったなぁ…と目を擦りへらっと笑う栄子に不思議そうに、そうなの?と首を傾げる蛍子。
そんな蛍子の視線が扉の開く音ともに上がれば栄子の後ろに向けられる。
「あ、おはようございます。秀一さん。」
瞬間びくりと跳ね上がる栄子の肩。
「…おはよう。」
それに対していつものように優しく笑みを浮かべる秀一。
そんな二人の様子にどこか違和感を感じてしまう蛍子。
「…今から朝食ですか?」
「うん、そうだけど。よかったら一緒に-…」
「いかない。」
秀一が言いかければ覆いかぶさる栄子の声。振り返らず彼にぴしゃりと言ったその様子に蛍子は目を見開く。
そして、そんな彼女の背を静かに見つめる秀一。
一瞬翡翠が揺れたような気がするも、すぐにいつもの彼の表情に戻ればその視線は蛍子の視線と交わる。
秀一が笑みを浮かべれば、じゃぁ先に行ってるね…と二人の横を通りすぎる。
そして蛍子は気付く。
栄子の横を通り過ぎる時に確かに秀一が栄子に何かを囁いた。
その瞬間、ぴくりと彼女の眉が上がったのを蛍子は見逃さなかった…。
「……。」
「……。」
「……ねぇ、栄子。」
幽助に言われた言葉が蘇る。
「私はあんたの助けになれたらと思うの。」
事態が以前と何やら変わっていっているのかもしれない。
思っていた物事はどうやらまた違う不安要素を作ってしまったようだ。
それでも友人が苦しむ姿を見るのは辛い。
「……蛍子…。」
ゆっくりと顔を上げた栄子の瞳には涙が堪っている。
「沢山かかえちゃ、苦しいでしょ?」
私はあんたの友達だよ?
そう言えば唇をきつく結んだ栄子の瞳からぼろぼろと涙が流れてくる。
ころころと落ちる涙の石。
それに目を見開く蛍子だったが、今はそれどころではない。
「力になりたいの、なれるかわかんないけど…お願い、話して。」
目の前の友人の体を優しく抱きしめる。
そうすれば、堰を切ったように体を揺らし泣き出す栄子。
それにさらに力を入れ抱きしめる。
「大丈夫だよ、栄子。」
何が大丈夫なんて分からない。
だけど…そう言わずにはいられない。
自分に何も力が無いことなど分かっている、だけど…
体を揺らし泣く彼女を見て、こんなにも辛かったのだと改めて感じる。
そして、こんなにも簡単だった事なのだと…
蛍子はもっと早くに聞いてあげるべきだったのだと酷く反省した。