第53話 狐の檻の中
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小さな頃から知っている「男の子」は、いつから「男の人」に変わったんだろう。
背丈もそんなに変わらなかったはずなのに、いつの間にこんなに大きくなったんだろう。
体つきも声もいつからか変わっていった。
性別が違うのだと、私たちは違う生き物なのだと意識したのはいつだったか-…
怖かった-…
距離をあけられたのも知っている-…
話しかければ他人行儀にされる時だってあった。
ずっと同じでずっと側に入る為には、私が今まで通りでいる必要があったし、それに加えて避けられても距離を置かれようとも分からない振りをする必要があった。
彼の行動に、仕草に気付いてはいけない
馬鹿な振りをするのは得意だ-…
そこまでして彼の側にいたかったのは、ずっと側にいたかったから。
変わらない関係でいれば、私たちはきっとずっとずっと側にいられる-…
そう思っていたんだ-…
栄子の唇を何度も支配しようとも狐の熱が冷める事はなかった。
逆に、苦しげに眉を寄せ瞳を濡らすその表情に、やめてと懇願する彼女に狐は自身が溺れて行くのが分かった。
何度も唇に重ねられる熱に、口内を犯す舌に栄子は眩暈と甘い痺れを感じれば意識が朦朧しつつも、このままではいけない…と甘い感覚から逃げようと顔を逸らす。
しかし逃がさないとばかりに追う唇に再び捕らえられればさらに深い口付けで呼吸を止められ追いつめられる。
「逃げないで…栄子。」
唇を合わす合間に囁かれる甘く艶のある声、そして再びそれが覆いかぶされば、意識が混沌としてくる。
「んん…やっ…やだ…」
そして、何度も重ねられるそれの合間に出る抗議の声もさえ、目の前の男はこれっぽっちも聞く気はないようだ。
掴まれた手首も、体からも力が抜けていくのが分かる。
口付けでこうも酔わされ意識が朦朧とするなどありえるのだろうか…
酸素不足も関係あるのかもしれない。
それでも力なくも、抵抗する様子を見せれば、見下ろす狐の瞳が微かだが揺れるのだ。
「もう、やめ…って、秀ちゃん…」
首筋に移動する熱に身が震えそう懇願するも、口を開けばまたそれを塞がれる。
そう、まるで拒絶を嫌がるかのように、だ。
太ももを優しく擦りあげる手に敏感に反応する体。
口付けだけでこうなってしまったのか、体中に神経があるかのように反応する。
開放された手で彼の胸を力なく押し返し抵抗の意を見せるも、それにただ狐の瞳は熱を帯びながらもどこか切なく揺れている。
泣きそうなのはこっちなのに、なぜ目の前の彼がそんな顔をするのか…
押し返す手を彼が優しく握れば甲に口付けを落とす。
それにもびくりと肩があがってしまえば、それに彼は妖しくも瞳を細めこちらを見下ろす。
「…拒まないで、栄子。」
「秀ちゃん……」
やめて…そう目で訴える。
「……。」
「お願い…」
出た声は酷く震えている。
しかしそれは恐怖ではないのだと栄子自身、分かっていた。
甘く痺れる体に、自分でもコントロールが出来ないその感覚に少なからず怯えていたのだ。
「君の…ひとつひとつの仕草が愛しくてたまらない。」
翡翠がさらに情欲の色を帯びる。
熱の籠るその瞳に、首筋をなぞる細い指。
なぞられた部分は火傷をしそうな程熱くて栄子が声を上げれば、狐は満足そうに微笑み再び落ちて行く。
「や、やだっ…秀ちゃ、あっ…」
触れられた所に弓なりに体を逸らす栄子に、狐はただそれに…溺れていく。
まどろむ快楽の中…
見つける一筋の光-…
手を伸ばし掴もうとも決して届くことなどないと分かっている-…
それでも縋ってしまうのはこの想いが重すぎて溢れてきたそれが行き場を求めてしまうから。
繋いで
繋いで
俺だけを見て
「栄子、愛してる。」
目を見開く愛しい君に、この言葉だけじゃ伝えきれない。
自分勝手なのはどうみても俺だった-…