第51話 幸せの欠片達
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「ねぇ、幽助。」
蛍子はテーブル肘を立て頬杖を付きながら、部屋の中にも関わらず目の前で拳を振り鍛錬をしている自分の婚約者に声をかける。
それでも視線を向けず「どうした?」と答える彼に蛍子は呆れながらも続ける。
「栄子…大丈夫かな。すごく無理してる気がするんだけど…。」
「あぁ?そうか?」
「…あんたの目は節穴なの?笑ってても空笑だって言ってるの!!」
相変わらずのこの軽い返しに怒りが溢れるも、はぁ…と大きなため息をつく彼女。
「…私はさ、あの子の気持ち分かりたくてもきっと全部分かってあげれない。人の命の重みを直に背負った事がないから、想像しかできない。…それがすごくもどかしい。力になりたいのに、力になってあげれない。」
悲しげに揺れる蛍子の瞳。
彼女と城内で度々会うも彼女の心情を考えれば考えるほどに浅はかに聞けないのだ。
しかも、彼女は知らない振りをしているというではないか…
だからこそ気丈に振舞っているのだと言う事もわかる。
それに幽助はやれやれと瞳を細め、拳を振るのをやめると、頭を左右にこきこきと鳴らせば彼女の側に来る。
「おめぇがそんなんでどうするんだ?力になりたいなら話、聞いてやればいいじゃねぇか。」
「あんた人の話聞いてたの?中途半端に首突っ込んでも私にはあの子の気持ち分かってあげれないのに-…そんなの…」
「気持ち分かってやれねぇから聞けないって、とんだ薄っぺらい友情だな。…心配する事なんて誰にでも出来んだよ、連れじゃなくたってできんだぜ?」
はんっと鼻で笑う幽助に、怪訝そうに眉を寄せる蛍子だったがそれでも言い返せないのは珍しくもっともらしいことを言う婚約者のせいだ。
「おめぇの思うようにしたらいいじゃねぇか。それを栄子がよけいなお世話だと思う事はないと思うぜ?もし思ったとしても、おめぇなりに心配して、あいつの気持ち分かりたいと思ってんだからいいんじゃねぇの?」
「……。」
「俺は考えるのは苦手だからな。失敗したらその時はその時考える、おめぇが俺より冷静なのは助かるが…こういう時はぐだぐだ考える時間もったいねぇぜ?」
「……あんたがまともに見える。」
「ひでぇな、おめぇ。」
苦笑する幽助。
「でも、一理あるわね。」
実際目の前の男はそうやって生きてきた。
だけどその生き方はとてもじゃないけど普通ではなかった。
普通なら殺されてもおかしくない境遇を彼は何度も乗り越えてきた。
だが、その度に彼は…
自分が思う道をまっすぐに突き進んできたのが事実だ。
そんな彼に惹かれたのは自分だけではない。
異性同性を問わず彼に惹かれる人は多い。
「栄子、蔵馬さんには言ったのかしら。」
一見、幽助には珍しい友人のタイプ。
だが中身を知れば納得する部分も多い。
そんな彼が自分の友人である栄子と幼なじみな上、想いを寄せているなどまた驚きだ。
彼らは夜を共にしてるほど仲が良い。
少々問題ではないか…とは思うものの、兄弟の様に信頼をしている仲なのだと見ていても分かる。
「言ったと思うか?」
「ううん、栄子の性格上言ってない気もする。結構抱え込むところ…あるから。」
周りが知っているにも関わらず、触れられたくないからこそ聞けない、そして頼らない。
肝心なところで頼ろうとしないのは栄子の悪い癖だ。
「だな。…蔵馬からも何も言ってないと思うぜ?」
「どうして??」
「聞いた所でどうこうなる話じゃないんだろうな…栄子が話せばきっと聞くんだろうけど、な。」
「…それは薄情では、ないんだ。」
「薄情どころか…」
「??」
「あいつの性格分かってるだろ?」
「……。」
「大事な者を守る為には手段は選ばない…そんな奴が自分を頼ってくるのを、待つか??」
苦笑しながらも呆れた様に瞳を細め言う彼に、なるほど…と口元が引きつる蛍子。
「ただな…」
幽助は頭を掻きながらも窓に目を向ける。
だが、何も言わない彼に蛍子は不思議そうに首を傾げる。
「…どうかした?」
「いや、なんでもねぇ。」
幽助は息をつき窓を開ける。
微かな生暖かい魔界の風が彼の髪を掠める-…
-…血と腐った肉の香りだと、飛影は言った。
それがよく分かるのだ。
血が濃くなればなるほど、そして血に染まる機会が多くなればなるほど…
平和の裏側に隠された残虐な血の性は怒りと血飛沫で蘇る。
大事な者を守れば守るほどに-…
歪みを忘れていた獣は再びその瞳を開く-…
愛情と性に苛まれ狂わぬ様に、願う。
***************
生暖かい風が肌を滑る。
それに起き上がれば、うつろな瞳で辺りを見渡す。
見慣れた自身の部屋。
寝かされているのは柔らかなベットの上。
開いたベランダと窓から差し込む夕焼けの赤に、屋根の上でうたた寝をしてしまった自分を飛影が運んでくれたのだと理解した。
(飛影にお礼言わなくっちゃ…)
一時期は気まずくなったものの、今では普通に会話をしてくれる彼。
蔵馬との戦いを中断してしまった事を謝らなければ…とずっと思っていた。
あの様な気楽な謝り形になってしまってものの、彼にちゃんと言えてよかったと思う。
再びベランダに目を向ければ、だんだんと濃くなる赤が目に入る。
真っ赤な瞳が脳裏に蘇る。
『栄子、おまえは私の物だ-…』
そして、粘着質な声-…
再び仰向けに寝転べば、ゆっくりと瞳を伏せる。
視界が闇に包まれるも、次にはっきり現れるのは幼なじみの、優しい笑み…
…何度も覚悟した
だけど、側にいれば居るほど
その覚悟も鈍っていく
こうなると分かっていた。
あの香りと温かさに触れれば触れるほど
迷うと分かっていたのに止められなかった。
優しくも甘い彼にこんなにも依存していると、分かっていたというのに-…
甘い考えだと分かっている-…
-…いつまでもこのままではいけない
確認をしなければ-…
彼とちゃんと話をしなければ-…
意を決してもう一度夕日の赤に瞳を向ける
「秀忠…」
栄子は小さく呟く。
そうすれば緩やかな風が自身を包み込み-…
-…あの時確かに彼は言った
『俺を呼べばいい。ここに入れてやる。』
と-…