第51話 幸せの欠片達
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ふわふわ-…
ふわふわ-…
まるで宙に浮くように
羽毛に…真綿に包まれたように心地良い。
大好きな安心する香り…
うっすらと瞳を開ければ赤い髪が目に入る。
そして、至近距離だからこそ分かる肌理の綺麗な肌に長い睫毛。
眠っている彼はまるで精巧に作られた人形の様に美しく見るのもを魅了する。
見慣れたはずなのに…。
月明かりが差す彼の顔…
きっとこんなに綺麗な男の子はこの世にいないだろうな…
まじまじと見つめれば思わず笑みが浮かぶ。
あれから夜を一緒に過ごしてくれる秀一。
ただ一緒に寝て…
ただ一緒に起きる。
うなされれば夢の中でも分かる…甘い香り。
体を包み込む温もり…
きっと彼が抱きしめてくれているのだろう。
『大丈夫、大丈夫だから-…』
耳に入る優しい言葉。
意識のない私でも毎夜聞いていれば嫌でも耳に残ってしまう…。
自然と彼の頬へ手が伸びる。
触れれば驚くほどすべらかなそれに、本当に悔しくなってしまう。
(私、女なのに…負けてる。)
そう思うながらも口元が緩めば、感触を楽しむかのように頬を優しく撫でる。
「ありがとう…秀ちゃん。」
そして、彼の額に自分の額を寄せる。
『こうしてれば寝れるでしょ?』
ぎゅっと握られる小さな手。
『ねれない、まだこわい、しゅうちゃん!!』
怖いテレビを見れば怯えて寝れなくなった小さな私を彼は優しくあやしてくれていた。
一緒の布団で一緒に寝る小さな私達。
『なら、これは?』
もう片方の手で頭を優しく撫でられる。
『……。』
じっと見上げる栄子。
『まだ、足りないの?』
苦笑する少年は仕方ないな…と、少女に身を寄せると彼女の額に自分の額をつける。
それに一瞬驚く栄子だったが、すぐに笑みが漏れる。
『…こんなに近くなら怖くないだろ?』
『うん、しゅうちゃん、すごいね。こんなに近かったらおばけ間に入ってこないね!!』
隙間があることを気にしていたのか…と、少女の思考に呆れるものの笑みが漏れるのも仕方がない。
『しゅうちゃん、だーいすき!!!』
ぐりぐりと額を擦り付ける栄子に、「いたいよ!!」と顔を逸らし笑う彼。
『しゅうちゃん、だーいすき!!』
頭の中で小さな私が彼に言った言葉。
何も知らない小さな私。
ただ彼が大好きで、いつまでもずっと一緒に居られると思っていた無知な私。
触れた額が温かい…
流れ込んでくるのは懐かしくて優しい思い出。
頬に伝う熱。
視界がぼやける。
シーツに落ちる涙…
ころころと流れ落ちるそれは時間と共にシミと化して行く。
「…秀ちゃん、こわいよ。」
怖い…
怖いの…
本当はまだ怖い。
…前よりもっと怖くなった。
彼の香りを求め、彼を側に感じれば…
さらに怖くなってしまった。
こうなるとわかっていたのに…
わかっていた…
ふいに自身の頬に触れる指。
涙を掬うその優しい動作にゆるりと瞳を上げれば翡翠の瞳と目が合う。
「また泣いてる…」
笑みを浮かべ細まる翡翠。
「ご、ごめん…夢が、怖くて…」
「…もう、大丈夫だよ。」
頬に手を添えられれば、瞼にキスを落とされる。
「!!?」
「驚かないでよ。これ位許して。」
再び近づく吐息に強く瞳を瞑れば、もう片方の瞼にもキスが落ちる。
そしてゆっくりと瞳を開け、恐る恐る見上げた栄子の瞳に映るのは切なげに揺れる翡翠。
「そんな顔…しないで。」
そういえば額に落ちるキス。
どんな顔だと言うのだろうか…
そんなに酷い顔をしているのだろうか。
頬を撫でる彼の綺麗な指。
何度も甘やかされた大事にしてくれた手がここにある。
それに自身の手を重ね、彼に笑みを向ける。
ありがとう…
そう言いかければ頬に触れる彼の唇。
涙の跡を辿るように唇がそれを掬えば、じっと彼の翡翠が顔を覗き込んだ。
「寝て。栄子。これ以上したくなる。」
「…え?」
思わぬ言葉に思わず固まるものの彼の言葉を理解すれば一気に身を引く。
真っ赤な栄子にくすくすと笑う秀一。
「嘘。」
「…!!」
「嘘だよ。」
こっちおいで、と楽しそうに笑みを浮かべ手招きをするが、探るように眉を寄せる栄子。
「……。」
「こないと…」
身を起こしかける彼に、思わず「行きます!!」叫ぶ。
楽しそうに笑う彼に、唇を尖らせながらおずおずと再び身を寄せる。
「ちゃんと寝てよ。」
そう言えば、腰に回される腕に寄せられ抱きしめられる。
それに一瞬身を固くする栄子だが、それも最初だけ…。
彼も彼女も知っているのだ。
甘い香り…
大好きな香り…
生まれた時から知る体温に温もりに、心から安心して行く…
緩やかに心地良い夢の中に入って行く-…
思い出の欠片達は、ひどく温かでとても幸せだった。