第50話 曖昧な赤
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そよそよと涼しい風が開いた窓から入り肌を掠める。
青白い月明かりがベットで寝ている彼女を照せば、顔に掛かる髪を秀一の指が優しくはらう。
規則正しい寝息-…
頬に残るのは未だ乾ききらない涙の跡、そして濡れた長い睫毛。
隣では同じベットで横になりながらも、枕に頬杖を付きそんな彼女を愛しげに見下ろす狐の姿があった。
華奢な手を辿ればしっかりと掴む自身の服の裾。
寝ているくせに離さないとばかりに強く掴んでいるそれに思わず狐から笑みがこぼれる。
参ったな…これは。
分かっていた事だが、本当に「言葉」のままである。
だが、今こうして安心しきって寝ている彼女を見下ろせば、心から安堵するのも本当だ。
頼られるのも甘えられるにも慣れた。否、自分がそうしてきた…いつか離れなければいけないと思いながらも、どこかで自分が居なければ一人で立つ事さえ出来なければいいとさえ思っていた。
だが、結局離れらなかったのは自分だった。
自身の思いに呆れ返るも、ここまで執着を示した自分自身が怖かったのも事実だ。
先が見えない、自身の行動が読めない不安定さ。
なによりも…これを失うのが怖い。
狐の指が彼女の唇を掠める。
桜色の唇は少し開き、そこから息をしているのか…温かな彼女の息を指に感じれば、疼く感情を抑えるかのように瞳を静かに伏せる。
そして-…
「俺を呼んどいて良い度胸だな。」
ベランダのカーテンが揺れれば、風と共に入る声。
-…わざわざ、病人を呼び出すお前の神経には驚くぜ。そう言いながらも、この城の主は気だるそうにベランダの柵に腰掛けカーテンの向こうの狐に不敵に笑いかける。
「用件は手短にいけよ。あまり遅いと奇琳が心配する。」
「……。」
彼女の掴む手を裾から優しく外せばそっと布団の上に乗せ、躯の元へ向かう。
「過保護もいい加減にしないと本物の兄妹になるぜ?あいつは願ったりだろうが…な。」
面白そうに笑う彼女の隣に苦笑しながらも腰掛ける狐。
そのまま空を見上げれば翡翠を細める。
「兄妹なら逆によかったのかもしれませんね。」
「へぇ…近親相姦でもなりそうだが?違うか?」
それでも嫌味は忘れないらしい。
「違わない。」
それにくすりと笑みの漏れる狐に、おいおい…と呆れた瞳を向ける躯。
「側にいる時間が多いほど追い詰められる、兄妹なんかだったら大変だった。」
「おまえ、結構危ない奴だな。」
「今更ですね。」
そう、今更。
血の繋がりがあったのなら今よりももっと彼女を貪欲に求め、自分に依存させる事ができたに違いない。
切っても切れない関係…むしろ願ったりだ。
中途半端な関係だからこそ、秀一の理性が離れる事を考えた。
今となっては言い訳に過ぎないが…
「狂ってるな…。兄妹だったら確実に俺はおまえを殺してるぜ。」
やれやれと瞳を細め呆れた様に言う彼女に、狐はくすくすと笑う。
「だから、あなたを呼んだんです。」
楽しそうに笑みを向ける狐に、食えん奴だな…と目を細める躯。
そして翡翠が彼女の瞳に映る。
「魔界統一トーナメント…場所を変えませんか?少しルールも変えて。」
「…なに?」
「とっておきの場所があります。」
にっこりと笑う狐に躯は怪訝そうに眉を顰めるのだった。