第49話 薔薇の君
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
深夜-…
開いた窓からそよそよと涼しい風が入り、カーテンが緩やかに揺れる。
微かな青い月明かりが部屋に差し込めば、月明かりを背に窓辺に凭れる青年の赤い髪を照らす。
彼の脳裏を占めるのは目を背けたくなる真実。
-…一度失敗した禁術。
それが時代を超え、今になって呪いとなり成就した。
間違っているわけではない。
それが真実。
きっかけを与えたのは狐自身。
そして、彼女の想いの強さが秀忠への術を成功へ導いたのも分かっている。
だが-…
きっかけはきっかけに過ぎず、また想いだけでは限度がある…
それだけでは一度失敗した禁術は成功しない。
彼の視線の先にあるのは月明かりが照らす床。
少し開いた床の隙間に翡翠の瞳は微かに揺れる。
「百年早いよ…栄子。」
俺を騙すなんて…と、くすりと笑みが漏れるも、悲しげに揺れる瞳には翡翠と金色が混じる。
ゆるりと振り返れば目に入る青い月。
月をみると心が和む。
それこそ昔からの癖とでもいった所だ。
それはどんな月でもそうだった-…
たった一つの月を除いては。
先日その月を久々に見れば自身の妖怪の血が酷く疼いた。
何千年も昔には一年に数度出没していたと言われるそれも、いつからか千年に一度見れるかどうかの月に変わった。
長い年月を生きてきた狐とて数度見た位だ。
真っ赤な月-…
知能の低い妖怪は、我を失れ血に狂う。
爆発的に上がる妖気は普段の穏やかな性格の妖怪さえ非道な修羅へ導くものだ。
狐とて例外ではない。
血を求め欲に狩られるのは妖怪の性である。
それが制御できるか出来ないかの違い。
先日の赤い月夜の晩に幼なじみを躯に頼んだのには予期せぬ事態と狐にとっては敵ともいえる男から身を守る為だけではなかった。
我を忘れ血に狂う亡者から彼女を守る為でもあったのだ。
もとより夜に外出は控えるようにと常日頃から言ってはいる。
どうしても外に出たいときは誰かを共に連れて行くようにと口が酸っぱくなるほどに言っている。
そう…
特にあの日から…
なのに…だ。
翡翠の瞳が向かう先はそれこそ月明かりの注ぐ庭園。
広い庭ゆえ本来ならばそう見つからないものの、目と鼻の良い狐にとっては朝飯前だ。
それに大きく息を付けば口元は呆れを含むものの緩やかに弧を描いた。