第49話 薔薇の君
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林の中では、大木が次から次へと倒れる。
土が舞い、視界は砂埃で埋め尽くされるも幽助は空から地面に着地すれば楽しそうに笑みを浮かべていた。
そして、すぐさま砂の舞う視界の中から突き出てくる剣を避ければ、背後から砂の風を切り裂くような拳が彼目がけて振り落とされる。
「あぶねっ…!!」
ぎりぎりでそれに気付き避けるも視界が悪い。
繰り出される鋭い剣と振りかかる拳の応酬。
どちらも当たれば致命傷だと思いながらもそこは幽助。
目を爛々とさせれば楽しそうに口角を上げる。
そして、再び地に足が着けば、反撃とばかりに双方に向かおうとした…その時だった。
「幽助!!!!!!」
聞こえた声に、足が止まる。
同時に動きが止まる影も他に二つ。
視界を埋め尽くす砂埃が風で流されれば、そこに立つ人物に幽助は目を見開いた。
栗色の長い髪にくりっとした見慣れた瞳。
腰に手を当て「何驚いてるのよ、ばか。」と呆れた様子で呟く。
「け、蛍子…おめぇ、なんでここに!!」
そう、目の前にいる女性は、幽助の恋人であり婚約者の蛍子であった。
「なんでって応援に来たのよ?さすがに長期の休みは取れないから合間取って来たんだけど…試合まだみたいね、すごく長引いてるって聞いたけど。」
実際幽助の試合は思った以上に長引き、未だ一試合もしていないという始末。
しかも最近あった事件のせいでさらに伸ばされ、ストレス過多で病気になりそうだった彼はこのように手合わせしてもらっていたのだとはいうまでもない。
そんな中、見計らってか空から降りてくるのは黄泉と、飛影。
飛影は呆れた様に赤い瞳を細めやれやれと剣を仕舞う。
どうやらこの続きはもうないものと踏んだのだろう。
黄泉は初めてみる蛍子に「なるほど」と面白そうに口角を上げる。
「というか、まさかここまで一人できたんか?瘴気は…」
魔界に来たとしてもなぜこんな林の中に。
魔界でこんな所を女一人でいるなど襲ってくださいといってるようなものだ。
「瘴気は問題ないわ。ぼたんさんから霊界の天然石の指輪もらったの。」
そう言えば後ろから「にぁぁ~」とふざけた様子で顔を出すぼたんに、彼は蛍子が一人ではなかったことにほっと息を付き、驚かせんなよな…と肩を落とす。
そしてそんなぼたんを冷ややかに瞳を細め見下すのは飛影。
一瞬だが彼女の登場時に彼の眉がぴくりとあがったのは気のせいではない。案の定彼の殺気染みた妖気に身の危険を感じ思わず蛍子の後ろに隠れたとはいうまでもなかったが。
「ぼたんも一緒だとまだ安心だぜ。躯には話通ってるのか?」
そう言えば、ぼたんが再び顔を出し、「コエンマ様から書状預かってきたんだわさ。」と胸のうちポケットから手紙らしきものを出す。
「ってことはまだ会ってないんか?」
それを受け取り中を開く幽助。
「さっき城に行ったんだけど、今は面会できないって言われたの。」
疲れた顔で呟く蛍子に、困った困ったと隣で頭をかくぼたん。
それで知り合いを探していたらたまたま幽助の霊丸の音や声が聞こえた為こちらに来たのだという。
一歩間違えば死んでもおかしくはない。
彼女達の無謀さにあきれ果てる幽助は大きな息をつく。
そんな様子に、付き合ってられんと踵を返そうとする飛影だったが-…
「蔵馬に報告する気かい?…い、今は保留だから心配する必要はないよ。証拠不十分でもあるしね。」
と指を立ててびくびくしながらも声を張り上げ言うぼたんに飛影はさも不機嫌そうに顔を歪めるるものの、それも一瞬…すぐさま呆れた様に鼻で嘲笑う。
「俺がわざわざ何を心配する必要がある。勝手にすればいい。俺には関係ない。」
「そういいながらあんたは蔵馬の肩をもつじゃないかい…。」
ぽそりとそう言えば、赤い瞳が冷ややかに細まり彼女の口は一気に閉ざされた。
そんな中…
「…幽助…。」
ふいに幽助を呼ぶのは未だ楽しそうに口角を上げる黄泉。
それに、何笑ってんだ?とつっこみたくなるものの、彼の興味が蛍子へと注がれているのが彼の気の流れで分かる。
「…この娘は?」
ほらきた…
分かっていて言っているのだと分かるも一度話している彼に変にごまかせば後でややこしそうだ。
「あー…予定だけど…俺の嫁…さん。」
後半小さくなりながらもぼそぼそと呟き俯き加減になる幽助に、何恥ずかしがってんのよ…と少し頬を赤らめながらも言う蛍子。
「ほう…。」
やはりな…と自身の顎に手を当て蛍子に視線を向ける。
それに違和感がないのは、見えないはずの瞳にも関わらず彼がしっかりと彼女を見据えているからだ。
どうも…と頭を下げる彼女に、黄泉はこちらこそ…と笑みを浮かべる。
「かわいいお嬢さんだ。結婚式にはぜひ呼んでくれよ。」
「…おうっ。」
蛍子の前だから照れくさいのかいまいち歯切れの悪い幽助に微笑ましい笑みを浮かべる黄泉。
そして、勝手にしろ…とその場から去っていく飛影に、幸せになってね!!と照れる蛍子の肩を叩くぼたん。
だがそんな微笑ましい??光景も次の蛍子の一言で終わる。
「そういえば、栄子は?元気にしてる??」
思い出したように言葉を発し「まさか魔界にいるなんて思わなかったから、皆始めすごく心配してたんだよー!!」と笑みを浮かべるも周りの静けさにあれ?と首を傾げる。
それに幽助は苦笑しながらも頬を掻いた。