第4.5話(妖狐編I)
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『いいか?栄子。おまえは俺の嫁になるんだ。』
愛しい彼が幼い私に何度も言った言葉。
あれからしばらくの月日が経ち、彼は天に召され、その約束は叶う事はなかった。
いなくなってから気付くかけがえのない人。
幼い私は、なくしてから気付く事が世の中には多いのだと、その時に知った。
悲しみも憤りも、後悔すらも、どこにもぶつけられず泣くことさえ忘れていた。
だから…
自分が拾った金色の狐が彼を死に追いやったと聞いた時は…
自分を責め、罪の重さに押しつぶされそうになり、自分の愚かさに涙が流れた。
そんな私を連れ去り、食べたいと、殺してやると言った妖狐は、今だに何もして来ない。
愛しい人を死に追いやった彼といる事で私自身に対する戒めができた。
あなたといる限り私は彼を忘れない。
ある昼下がりの午後、栄子は彼が率いる盗賊団のアジトの一室にいた。
「蔵馬、私働きたいの。」
蔵馬と呼ばれた元狐、妖狐は少女の髪を撫でていた手を止める。
「なぜだ?」
「…何かしたくって。ずっとここに居座り続けるわけにもいかないじゃない?」
「それはここを出て行くためか?」
彼の金色の瞳が不安気に揺れる。
(なら…私はなぜここにいるの?)
「私は…」
なんでここに連れてきたの?
連れ去られしばらくの月日が流れていた。
毎日訪れる暖かい日常。こうやって彼が毎日会いに来て、毎日髪を撫でて優しくする。
それはなぜかわからない。
ヘンゼルとグレーテルのように太らせてから食べるのだろうか。
もとより彼は食人鬼の類ではないらしい。
なら意味があるのか。
「だめだ。」
「どうして?」
「おまえの涙は特殊だ。妖怪ならまだしもただの人間、狙われたら死ぬのが目に見える。」
「…。」
答えなど分かっていた。
「わかったな?」
強制だ。
心配などではない。
最近の狐は自分との外出しか許さなくなっていた。
日に日に執着していき自分を縛ろうとする狐だったが、栄子は以前愛した彼を忘れないための戒めだと自分に言い聞かせ受け入れていた。
だが、狐の側にいようとする反面、なぜか離れなければ行けないと思う気持ちが募る。
狐は冷酷で残忍である。
だが自分には優しく、暖かくとても身勝手だ。
逃げてはいけない。
彼を忘れてはいけない。
逃げたい。
ここにいてはいけない。
縛られ動けなくなってしまう。
逃げたら楽になる?
何から?
以前愛した彼の呪縛から?
彼の呪縛はすでに解かれていた。
呪縛は狐だ。
ある日、盗賊仲間で街に出かけた折、栄子は住み込みで働けるという宿屋の看板が目に付いた。
どうした?と振り返る狐に栄子はなんでもないと首を振った。
その夜、栄子はアジトを抜け出して宿屋で働かせてもらうために、また妖狐から逃れるために逃げ出した。