第48話 代償の大きさ
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目的の本は始めから決まっていた
だけど、どうも見当たらない
「何、探してるの?」
一緒に探そうか?
そう言ってくれるもそれは困る。
言えるわけがない。
「うーん…ミツバチ・パンチの続編?」
「…俺の部屋にあると思う?」
「躯さんの部屋にはあったよ?初巻が。」
「なら、躯に借りたら?」
「続はないもの。…ねぇ、秀ちゃん。」
困った時にはいつも使っていた。
甘えたな声を出し、彼を見る。
「無理だよ、俺見たことないから。」
「……。」
探してきてと言いそうになった口を閉じ、頬を膨らませる。
…甘い雰囲気になればいう事でも聞いてくれるだろうか。
そんな考えが脳裏をよぎるもすぐさま首を振る。
若干、いやかなり自殺行為だ。
試さないほうが身の為だ。
よく考えれば付き合っているわけでも何もない、私達は単なる幼なじみ。
好いてくれているのは嬉しいし照れたりもするが、下手に試すと後が大変な気がする。
…そう、きっと逃げられない。
だけど、今はそんな事を気にしてる場合ではないのも事実。
手段を選んでいる場合ではない。
彼の部屋のどこかにあるはずだ。
一度、見た記憶が微かにあるのだから。
「秀ちゃん。」
少し甘い声を出し、じっと彼を見上げてみる。
しかし、きょとんとした彼の表情。
どうかした?と至極普通に聞き返してくるので、更に続ける。
「私、どうしてもミツバチ・パンチが読みたいの、秀ちゃん。お願い、探してきて。」
指を口に当て自分の中の思いっきり甘えた声で話してみる。
恥ずかしい…が、ここで恥らっているわけにもいかない。
色気レッスンの時を思えばこんなも朝飯前だ。
それになぜか酷く怪訝そうな顔をする目の前の男。
「…栄子、どっか調子悪い?」
ちっがーう!!!
と突っ込みたい気持ちを抑え踏ん張る。
「秀ちゃんと一緒に読みたいの。」
「…ミツバチ・パンチを?」
「うん。その、夜…最近、寝れないから…一緒に寝る前に読んで欲しい…なって。」
さすがにこの言葉達は本気で恥ずかしく、しどろもどろになるは本気で照れるはで彼の顔は見れない。
「…夜?」
振る声にさすがにどんな顔をすればいいのか分からず深く頷き、そのまま俯く。
「……一緒に寝たいの?」
「!!!!?」
思わず驚いて顔を上げると、翡翠の眼差しとぶつかり、心臓が飛び上がる。
「…俺、気持ち伝えたの覚えてるよね?」
見上げたそこにあるのは、妖しい色を乗せた彼の瞳と綺麗に孤を描いた口元。
「う、うん…」
「へぇ、いいんだ。」
意外そうに口元に手を当てる。
「な、なにが!!?」
思わず何がいいのかと聞き返してしまうのは仕方がない。
いいのかこの会話!!と心の中で、STOPをかけつつも止め所が既に分からない。
「何がって、何ならだめ?」
それでもにっこりと微笑む彼がなぜか恐ろしい。
「え…え…」
これは返答次第では探しに行ってはくれない。
「…え、えっと…」
足りない頭で精一杯考える。
じっと見つめる翡翠の瞳、見慣れたはずのそれは自分を求める男の顔…だ。
「秀ちゃん次第で、いいです。」
それに大きく目を見開く彼に、思わずあれ?と首を傾げる栄子。
しかし、それも束の間。
頭に置かれる彼の手に、見上げれば微笑む彼の顔。
「了解、逃げないでね。」
顔を覗き込み、そう言うと軽く額にキスを落とし部屋から出て行く。
「……。」
(あ、あれ?…私、なんかものすごくまずい事、言った?)
最後に見せた彼の笑顔は嫌に嬉しそうで、それでいてとても…
「は!!そんな事考えている場合じゃない!!!」
本来の目的を思い出し、彼の部屋の中を漁り出す。
ミツバチ・パンチの続編など嘘だ。
好きな絵本ではあるが、そこまでして…身を呈してまで読もうとは思わない。
「ない!!どこにもない!!!」
本棚の後ろ、ベットの下、布団の中…机の下、トイレ…等見える場所全て探したがどうも見つからない。
そして、ふと考える。
蔵馬ならどこに隠すのか…?
そして、目に入ったのは窓際にある大きな観葉植物。
(…魔界の植物だったらどうしよう。)
恐る恐る近づき植物の葉を指で弾いてみるものの何の反応もない。
それにホッとすると、植木鉢の土を掘る。
が、やはりない。
「一体、どこー!!!?」
床にべたりと座り次に探す場所を決めようとした時だった。
植木鉢の下にある微かな隙間、違和感を感じその大きな植木鉢を動かす。
(あ…!!!)
床に開いた小さな穴。
指を居れ、それを横にずらせば扉の様にスライドする。
そして-…
「あった…。」
床下収納庫の様に、奥行きがあるのか、ぎっしりと詰まった古い本達。
それを見渡すとある一冊が目に止まり、それを手に取る。
「これ、だ。」
『禁書』
いくつかある禁書の中でも、一番古そうなそれ。
きっと一番初めに作られたものに違いない。
ぺらぺらとページを捲り頭に詰め込むだけ詰め込んでみる。
彼の事だ、本を持っていけばきっと気付く。
読めば読むほど心が砕けていく。
聞かされていた事が真実だと改めて知る。
青ざめる顔、震える手をぎゅっと自分で握り締め落ち着かせながら先へと捲って行く。
「栄子、続編なかったよ。」
しばらくして帰ってきた幼なじみ。
それに「ありがとう、残念。」と苦笑すると幼なじみも俺がね…と面白くなさそうに呟いた。
ごめんなさい。
嘘をついて…
ごめんなさい、私の為に。
私の為にこれ以上、罪を重ねないで…
微笑んだ顔が自分でどんなものだったのかなんて分からない。
ちゃんと笑えてるのかな?
それだけが不安だったけど-…
目があった彼の顔がいつもと同じ笑顔だったから、酷く安心した。