第47話 戯言
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「…暇だ。」
広いベットの上には、上半身を起こしさも気だるそうに頬杖を付き窓越しに雨の降る暗い外を見つめる躯の姿。
自由に動きたいのは山々な彼女、しかしどうもまだ体が痺れて言う事を効かない。
浅野に治療をあたらせてもこれだ…
妖怪退治の陰陽師の香を長時間嗅いだせいだと分かっていても、許せないのは自分の不甲斐なさであった。
気をつけてさえいれば対処できた。
自身の力を過信し過ぎたのは部下だけではなく、己自身だった。
(…人の事を言えた義理じゃないな。)
あの時、狐が来ていなければ栄子は攫われ、自分もここにいなかっただろう。
「躯様、林檎が剥けましたが…。」
そんな彼女の目の前に櫛で差した林檎が差し出される。
一口サイズになったそれ。
それを受け取ればそのまま彼女の視線は林檎を渡し離れて行く手を追い見上げる。
そして再び残った林檎を甲斐甲斐しくむいてくれるのは、ベットの横で椅子に腰掛ける酷く不機嫌そうな奇琳であった。
「…おまえに世話をやかれるとは。…俺の寝首かくのだけは勘弁してくれよ?」
そう冗談を含んで言えば眉を寄せる彼。
しかし、すぐさま目を伏せ息をつく。
「この奇琳。本気の躯様にこそ手合い願いたいもこんなに弱られては戦う気も失せます。」
「言ってくれるじゃないか…。」
そうは言っても実際は奇琳の言うとおりだ。
今の躯ならば下級妖怪とて彼女の首を取る事も可能だろう。
それだけ体の自由が効かなくなっていた。
「私はあなたの強さだけに憧れ着いてきているわけではありません。そこはお忘れなく」
「……。」
「しかし、また今回の様なことがあれば私の気も変わるかもしれません。戦士の士気にも影響します。…あなたに敗北は似合わない。」
「へぇ。…俺だって完璧じゃないんだぜ?」
瞳を細めからかう様に笑う躯。
「私の中では崇拝するに等しい方です。」
「……おまえ、固いな。」
「なんとでも。無茶はしても構いませんが…部下に心配はかけささないでください。」
それに思わず微笑んでしまう躯。
俺はいい部下を持ったな…と呟き、後ろに凭れれば奇琳の渡す林檎をまた取る。
「そういえば…躯様。以前お渡しした本はもう読んだのですか?」
「本?…あぁ、あの直筆の本の続きか?」
「そうです。あれに続きがあった事に驚きですがね。」
以前暇そうにしていた躯に渡した直筆の本の続編。
城にやってきた商人から続きがあるといわれ奇琳が買い取った本、だ。
「……。」
「…様子からすると読んでないようで。珍しく一冊目を読まれたのでどうかなと思ったのですが…。」
やはりきまぐれでしたか…と奇琳は苦笑する。
「…あれは…」
「…?」
「…あれは実話か?」
躯はまっすぐに目の前の男に視線を向ける。
直筆の物語。
だが実際はどこか日記にも似た本。
なによりも続きには…
「途中で途切れていたから…ですか?」
という事は読まれたのですね…と苦笑する彼。
最後まで書けなかった理由があったのか。
そこまでして書いていたのはなぜか…
殴り書きのようなページもあればペンで字を潰した跡まであった。
「実話かどうか定かではありませんが。私の見解ではその線も濃いかと…。何故、読まれたからこそ驚かれたでしょう?」
それに怪訝そうに眉を寄せる躯。
「…おまえ、わざと俺に渡したな。」
そうまさしくそこに描かれたのは
残酷な物語-…
奇琳の林檎を剥く手が止まればゆっくりと視線を上げ主をじっと見据え苦笑する。
愛しい女…
その人魚の肉を食した男
女の命は、永遠に男を縛る
それこそが男の罪…
そして女の愛情だった-…
だけど…運命は残酷-…
それこそが裏の物語…
彼らには一人の娘がいた。
男は妻を生き返したいが故
まだ幼い自分の娘に手を掛けた。
『生贄』
として-…
「ある意味、人間の方が欲深く獰猛で愚かな生き物かもしれませんね。そう思えば、我ら妖怪の方が欲に忠実で分かりやすい。」
「……。」
「…考えすぎだと、いいのですが。」
目の前で無言になる彼女に奇琳は切なげに笑みを浮かべたまま瞳を落とす。
それに息を付けば、ゆっくりと再び窓辺に瞳を向ける躯。
躯の視界に入るのは…
初めて彼女を見つけた庭の花壇だった。